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リディアがちゃんと世話をされていないのは、オラン伯爵夫妻が領地に行ってからなのかもしれない。
そうすると2年近くは経ってしまっているのかも。

ユーフィリアはボルトに手紙を書いた。リディアに会いたい、と。
断られたが、再度、手紙を書いた。

『リディアのお茶会デビューで、リディアが病気なのではないかと心配した夫人がいるそうだ。
 そんな噂が広がると、リディアに縁談が来なくなる。
 病気ではないことを確認させてほしい。私が確認できたら、夫人たちにも勘違いだと報告する』
 
すると、リディアに会う許可が出た。噂が広まるのは困るのだろう。

ユーフィリアはアディールと共にオラン伯爵家へと向かった。




応接室に案内され、少し世間話をしてもリディアは来ない。目的はリディアに会うことなのに。


「ボルト様、リディアに早く会わせてください。」

「……はいはい。わかりましたよ。リディアを連れてこい。」


少しして入室したリディアは確かに痩せていて小柄だった。
それに、なんとも似合わない服。サイズが大きい?
思わず駆け寄って、リディアを抱きしめた。


「リディア、会いたかったわ。お母様よ。覚えてるかしら。
 こんなに痩せてて体調は悪くない?ご飯はしっかり食べてる?」

「人聞きの悪いことを言うなよ。ちゃんと食わせてやってる。
 だけど、リディアは好き嫌いが激しいらしくて、いつも残してるらしいんだ。」


自分たちが悪いわけじゃないと言うボルト。
それに、一緒にご飯を食べているわけでもなさそうな言葉。


「そうなの?以前はリディアの好きなものをコックは出してくれていたわ。
 確かに嫌いなお野菜はあったけど、工夫してくれていたし。
 それに、リディアが食べられる好きなものを出すように頼めばいいじゃない。
 病気ではなくても、こんなに痩せていては病気を疑われるのは当然よ? 
 髪も手も荒れてるわ。ユリナはどうしたの?辞めたの?」

「ユリナって誰だ?」

「リディアの侍女よ。」

「……ああ、何年か前に辞めたよ。違う侍女をつけたけど、リディアがいらないって言うんだ。」

「侍女は必要よ?伯爵令嬢なのだから、今後はもっと必要になるわ。
 髪やドレスも侍女がいなくては整えることができないわ。
 こんなに可愛い子が別の意味で目立ってしまうわよ?
 婚約者を探すのなら、ちゃんと食べさせてお世話をしてくれる侍女をつけないと。」

「……わかったよ。ちゃんとつけるから。リディア、文句ばかり言うなよ?」

「……はい。」


やっと聞けた娘の声は覇気もない。笑顔もない。何が原因?
ボルトはリディアが我儘言ってるから仕方がないといった感じになっている。
ならアビゲイルが原因?リディアにどう接しているのかしら。


「リディア、マナーはお勉強の方はどう?家庭教師の先生は厳しい?」

「あー。どうしてか嫌がって部屋に籠もるから今は家庭教師もいない。」


どうしてか?そのどうしての理由を聞かなかったってこと?
ダメだ。やっぱり父親としての自覚も責任感もない。


「オラン伯爵夫妻はご静養だと伺ったけど、具合はどうなの?
 リディアも領地で伯爵夫妻と過ごした方がのびのびできる気がするけど。」

「両親は、まあ良くなってきた。近々戻る。
 今更リディアを領地に行かせたら、婚約者を探せなくなる。」

「でも、婚約者を探すためにはマナーや勉強も必要よ?
 親は教育が行き届いているかをちゃんとチェックしているもの。
 リディアに合った家庭教師を探してあげないと。」

「あー。そうだな。ちゃんと探す。」

「……リディアは私と暮らす方がいいんじゃないかしら?」

「それはダメよ!」


今まで黙っていたアビゲイルが声をあげる。


「リディアはあなたより私たちと暮らしたいわよね?そうよね、リディア。」


リディアは頷いた。


「ほら。母であるあなたより、父であるボルトを選ぶの。いい加減わかったら?」 
 

何も言い返すことはできない。

ユーフィリアは最後にもう一度リディアを抱きしめた後、両手を握って目を見て言った。


「リディア、あなたは大切な私の娘よ。愛してるわ。それを忘れないでね。」
 

リディアの待遇改善を再度言い渡し、アディールと共にオラン伯爵家を後にした。
 

 

ユーフィリアはやっぱり、と思った。

ボルトは単なる無関心なだけで、アビゲイルの言葉をそのまま信じているだけ。
リディアがああなっているのは、アビゲイルのせいだ。

けれど、強引に連れ出すわけにはいかなかったし、しつこく言うと逆効果。
リディアを外出させなくなると、助け出すこともできなくなる。
 

次のお茶会が外出のチャンス。それまで、可哀想だけど頑張ってほしい。


 

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