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しおりを挟む朝食後、離婚届にサインを終えた時、伯爵夫妻とボルトが言った。
「リディアはやっぱりうちで引き取る。」
「伯爵令嬢のままの方があの子にはいいと思うわ。」
「アビィがリディアも娘として可愛がるって言ってくれたんだ。ここに置いていけ。」
昨日は何も言っていなかったのに、急にそんなことを言い出したのだ。
「そんなっ!実家にもリディアと帰ると伝えてあります。
あなた、全然リディアに関心がなかったのに、どうしてそんなことを?」
一緒に遊んでやったことも、声をかけてやったこともほとんどないのに。
女の子だから相手の仕方がわからないって言ってたけど、男の子でも一緒だったと思うわ。
「リディアは伯爵令嬢だ。お前と一緒に行ったら実家の養女になるか平民になるかだぞ?
アビィが育てるって言ってるんだから、ここにいた方が将来安泰だ。」
言っていることは間違いないけれど……育てさせる?あのアビゲイルに?やめてよ。
「不満なのか?じゃあ、リディアに決めさせるのはどうだ?リディアを連れてこい。」
リディアに決めさせる?そんなの、あなたがいいって言うわけないじゃない。
爵位だとか収入だとか、まだそんなの4歳になったばかりのリディアにはわからないわ。
ろくに話したこともない父親と側にいる母親なら母親が当然でしょ?
そんなこともわからなのかしら。まぁ、自分が父親って自覚が薄い人だからね。
そんなことを思っていると、リディアがやってきた。
ボルトがリディアに聞く。
「リディア、お父様やお祖父様たちとここにいるか、お母様についていくか、どっちがいい?」
何だろう。言っていることに間違いはない。でもなぜか質問に違和感を感じた。
その聞き方じゃ……
「おとうさまがいい。」
リディアが言った言葉を聞き間違ったのかと思った。それほど驚いた。
「リディア?本当に?お母様と会えなく……」
「ユーフィリア!リディアは僕を選んだ。聞いただろう?荷物を持って出て行ってくれ。」
「……わかりました。」
最後にリディアを抱きしめて『元気でね』と伝え、伯爵夫妻にも挨拶をして馬車に乗った。
馬車の中で、リディアの将来のためにはこれで良かったんだと思うことにした。
アビゲイルが義母の役目を果たさなくても、伯爵夫人がいるから問題ない。
そう思っていた。
それでも、娘に選ばれなかったことはショックだった。
実家に着くまで、馬車の中で泣き続けた。
王都にある実家では、両親も兄夫婦もユーフィリアを受け入れてくれた。
連れ帰ってくるはずのリディアがいなかったことに驚き、理由を説明した。
「ユーフィリア、それはオラン伯爵とボルトにしてやられたんだよ。」
「え?どういうこと?」
「おそらく彼らは、リディアが将来誰かと縁を結ぶのに役立つかもしれないと考えた。
伯爵令嬢だからね。伯爵令息、侯爵令息や公爵令息も可能性がある。
あの子はお前に似て、将来は美人になるだろうから、駒として置いておくことを選んだ。
リディアには『お父様とお母様のどっちがいい?』と聞かれたら『おとうさま』と答えさせる。
それを前もって言い聞かせておいただけだ。
『おとうさま』と答えれば、何かご褒美がある。まだ4歳なんだ。そんなとこだろう。
リディアはお前と会えなくなるとは思っていないはずだ。」
「……やっぱり。聞き方に何か違和感があったの。端的過ぎたのよ。
まるで私のお出かけについて行くか、みんなと家にいるか?みたいな感じで。
私と会えなくなるのに本当にいいのか聞こうとしたら、早く出て行けって言われたから。」
「今更、どうしようもないな。
そんな騙し討ちだったんなら、今後は会わせてももらえないだろう。おそらく手紙もな。
離婚すればどちらか片方はそうなる。仕方がない。
新しい義母に慣れさせるためでもあるからな。
誕生日に贈り物をするくらいは許してくれるだろう。」
「それにしても、アビゲイル・グレイ男爵令嬢、か。」
兄の呟いたその一言に、忘れていた疑惑を思い出した。
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