離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん

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「おとうさまがいい。」


この言葉を4歳の娘から聞いた私は、ひどくショックを受けた。

だが確かに、ここにいれば伯爵令嬢。
離婚して実家に戻ったら、娘の立場は微妙になるから。

娘の将来を考え、この時の私は一人で実家に戻ることにした。 

娘が母親ではなく父親を選んだ。たとえ4歳でもその意思を尊重しようと思って………
 




私、ユーフィリアが夫であるボルトと離婚することになったのは昨日のことだった。

娘のリディアと共に昼食を食べようと食堂に向かっていると、使用人たちが困惑している様子だった。
リディアを侍女に預けて先に昼食をとらせるように言った。
使用人から話を聞くとみんな揃って口を濁す。彼らが目を向けるのは、夫の部屋の方だった。

あぁ、ボルトが何か仕出かしたんだわ。すごく嫌な予感がする。

そう思いながら向かった。

部屋をノックしても返事はない。
だけど、ボルト付の侍従は戸惑いながらここにいるし、ボルトも部屋の中にいるはず。
返事はないけれど、扉を開けた。

かすかに聞こえる女性の喘ぎ声、ボルトが何か言った声。

それは夫婦の寝室の方から聞こえた。

寝室の扉がちゃんと閉まっていなかったために、入った瞬間でもわかった。
侍従や使用人たちが戸惑うはずだ。

よりにもよって、夫婦の寝室で不貞をするとはね。

遊んでいるのは知っていたけれど、どうでもよかった。
だけど、ここまでするということは離婚を考えていると思っていいはず。
ボルトとの生活にどうでもよくなっていたユーフィリアはノックをしながら寝室の扉を押した。


「っお前、驚かすなよ。くそっ……萎んだじゃねえか。」

「も~!あと少しだったのに。」


夫と相手の女の言葉に呆れた。ここは夫婦の寝室。……まぁ、長いこと使ってないけど。
 

「話を聞きたいので服を着てから出てきてくださいね。」


それだけ言い、扉は開けたままにした。
また始めるとは思わないが、念のため。
 
 
服を着た2人が姿を現し、話を聞くことにした。


「アビィが妊娠した。だから、お前とは離婚する。」

「妊娠?本当にあなたの子ですか?間違いなく?」

「失礼ね。あなたと違って、私は男の子を産むわ。閨の相手もしないあなたは産めないでしょ?」
 

この女性、アビゲイル・グレイ男爵令嬢は、妊娠初期にもかかわらず夫ボルトの上に乗って腰を振っていたということだ。
さすが、夫が相手に選んだ女性というだけのことはある。

夫は私が妊娠中も産後も、体を求めてきた。
特に問題だったのが産後。
まだ悪露で出血があり、医師からも閨事の許可が下りていない出産5日後から求めてきたのだ。
もちろん、断った。
それが何回も続き、結局、医師の許可が出る前に夫は外で遊ぶことにしたのだ。

それからずっと、閨を共にしていなかった。
いつかこんなことになるかもしれない。それはずっと思っていたから動揺はしなかった。
 

「そうですか。わかりました。お義父様たちはご存知ですか?」

「いや、アビィを紹介しようと思って今日は呼んだんだ。その方が離婚の話も早く進むと思って。」

 
なのに、その前に盛っていたということか。呆れた2人。

実家には、夫との仲が良くないことは伝えてある。
離婚することになれば、帰ってきても問題ないと言われているので気が楽だった。


「じゃあ、報告しに行きましょう。」

「……可愛くない女だな。動揺して涙も見せないなんて。」


あなたに気持ちがないから涙も出ないとは思わないのね。まだ好かれてると思ってるとか?


そんなどうでもいいことを考えながら、昼食を食べ終えたであろう義両親の元へと向かった。 


 
 
 
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