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しおりを挟むやっぱりダメだったか……ゲオルドは、サラーナがこのまま契約結婚を継続してくれるかもしれないと少し期待していたのだ。
そもそも10年と初めから決まっていたのに、その後のことを考えることを後回しにしていた自分のせいだ。
イリンが出産してから、自分の気持ちが少しずつ変わっていった。
いや、出産してからではなく、イリンがサラーナのフリをしたエマに泣いて怯える演技をするところを見てから、だろうか。
イリンが妊娠するまでの恋人として過ごした年月は幸せだった。その当時は幸せだったんだ。
だか、思い返せばいろいろあった。
あの頃は毎日とはいかなかったが、2日と空けずにイリンに会っていた。毎回でも彼女を抱きたかったが体だけが目当てのように思われたくなくて、部屋ばかりではなかった。
だが、レストランに行こうとすると、貴族御用達に行ってみたいと言われたことがあり、さすがにそれは無理だった。
「マナーはもちろん、ドレスコードもあるから、イリンの格好じゃ入れてもらえないんだ。」
「じゃあ、ドレスを買ってくれたらいいじゃない。」
「ドレスは1人じゃ着れないし、保管に場所も取る。手入れも必要になるからイリンの部屋に置いておいても邪魔になるだけだよ。」
「じゃあ、ドレスを並べられる部屋に移ればいいじゃない。」
「1人で広い部屋に住んだら掃除も大変だし、イリンが金持ちだと思われて狙われたら困るからね。今のところが治安も良くて安心だ。」
本気でそう思っていた。だが、今思えばおそらくイリンはドレスや広い部屋を強請っていたのだろう。
アクセサリーのこともそうだ。
「ねぇ、ここに入ってみたいな。」
「……ここは貴族専門で予約制だし無理だよ。」
「え、じゃあ、予約したら入れる?」
「だから、無理なんだ。イリンは平民だから、記録に残せないから。ここはね、いつ誰が誰に何を贈ったかを記録されるから。」
「誰かの名前を借りたら?私、貴族のフリをしてあげる。」
「それは罪になるからダメだよ。それに、ここの宝石は格が違うんだ。イリンが身に着けたらチグハグになるよ?ワンピースに高級アクセサリーなんて目立つし狙われる。普段、身に着けられる物の方がいいよ。」
本気でそう思っていた。だが、今思えばおそらくいつか金に換えるために高い物がほしかったのだろう。
イリンが出産後に用意した新しい部屋に荷物を入れた時、本人が入る前にいろいろと確認した。
今まであげたアクセサリーのほとんどは、もうなかった。
強請られて買った、平民には不似合いの帽子や靴なども見当たらない。
ワンピースは10代の頃の物はデザイン的に似合わないから売ったのだろうが、それでもたくさんあるはずのワンピースもかなり数が少ない。
毎月、何枚も買ってあげていたのに、部屋に納まるはずもないことに気づかない自分が滑稽だった。
イリンはあげた物を換金して何に使っているのだろうか。
ゲオルドが訪れない日の行動をその時、初めて確かめた。
彼女は平民でも会員になれる高級クラブに出入りしていた。
お酒が好きな彼女はそこで男性店員と楽しく飲んで会話をして過ごしているとのことだった。
イリン本人は気づいていないが、もちろん上客としては扱われていないため側につく男性もソコソコなのだが、貴族につく店員を知らないイリンは満足しているようだ。
客は楽しく過ごし、店はお金を落としてくれれば問題ないのだから。
ゲオルドとしても、その程度なら仕方がないかと放っておいた。
だが、イリンの元に通う足が少しずつ離れ、一緒にいる時間も短くなった。
そうして何年もダラダラと過ごしてしまった。
浮気に気づいたのも最近ではない。
ゲオルドに他の女を抱いたら許さないと言っておきながらイリンは浮気をしていた。
そのことに気づいても、思ったよりも腹立たしくなかった。
そして、サラーナとの10年の契約結婚を終える前にイリンとも終わりにしなければ、と思ったのだ。
ケジメをつけて、サラーナに契約結婚の継続を頼んでみよう。今の暮らしに満足しているようだから、受けてくれるかもしれない、と。
……ダメだったが。……だよな。
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