31 / 31
31.
しおりを挟む半年後、クルズと入籍した後に、両親に会って告げた。
「行方がわかったと思えば、また結婚しただと?今度は契約などしていないのだろう?苦労して倒れたらどうするんだ?離婚して帰ってきなさい。また私たちが面倒見てあげるから。」
「万が一倒れても夫も義父も医師なのですから何の心配もありません。というか、私はもう元気です。
10年間の間に風邪を引いたのも2回だけだったのですよ?侍女たちよりも元気でした。
もう私に構わず、孫を可愛がって暮らしたらいかがです?」
4年前に結婚した弟リックスに子供ができたのは1年前のことだった。
「リックスは子供をあまり私たちに会わせてくれないのよ。」
まぁ、その気持ちはわからなくもない。
娘を過保護に、息子を放ったらかしに育てた両親に会わせると何を言われるかと嫌になるだろう。
10年、サラーナがいなくても弟は両親のことをよく思っていないままらしい。
そのことに両親が気づいていないということも変わっていなかった。
「私たちにはお前が生きがいなんだ。いろんなところに旅行に行かないか?そのためにリックスに仕事を任せたんだ。私たちも元気なうちに楽しみたいからな。」
旅行って……。相変わらず自分たちが望むことに私が従うと思っていて、私の意思はどこにもない。
私を生きがいにされても、こっちは息が詰まりそうになるの。
だから、もう会わない。嫌いになりたくないから。恨みたくないから。
「お二人でどうぞ。もう本当はわかっていますよね?私が健康になったということは。
惜しみなく治療してくれたことは感謝しています。ですが、せっかく元気になったのです。私も幸せになりたい。そしてその幸せは夫と子供と共に分かち合いたいのです。もう私を自由にしてください。
お元気で。さようなら。」
もう私はこの家に戻ることはない。縋るような両親に別れを告げた。
息子になったジャックはとても可愛い。
クルズに似ているので、親子だと言われても違和感もない。
クルズとジャックの本当の父親は従兄弟なので、2人が何となく似ているからだろう。
『医師の仕事に興味を持ってくれたら嬉しいな』とクルズはジャックと一緒に仕事をすることを期待している。
それが叶うことになるのは20年ほど先の話だった。
元夫ゲオルド様と妻になったルミアとの間にはなんと子供ができた。
ルミアは子供が産めないからと離婚されたのに、妊娠して驚いたという。
ゲオルド様もまさかと思っていたので避妊することはなかったのだろう。
驚いたが、喜ばしくもあった。産まれたのは男の子。
誰よりも喜んだのはロゼリアだった。跡継ぎは弟に任せると言い出したのだ。
『自分は子爵家か男爵家に嫁ぐ。頭が悪すぎる自分に伯爵家は重い』そうだ。
婿養子の話はまだ進めていなかったため、ロゼリアの望む通りになるだろう。
ゲオルド様は60歳くらいまで伯爵で頑張らなければならなくなった。
まぁ、ルミアがいるから何とかなるだろう。
なんだかんだと10年、遠回りしたような気もする。
だけど、遠回りしなかった人生が今よりも幸せだったかどうかはわからない。
どちらかと言えば、過保護生活が嫌になって逃げ出して………うん。最悪だったかも。
両親には感謝の気持ちもあるけれど、やはり自由を知ってしまうともう戻れない。
なので、10年遠回りしたからこそ、愛する夫と可愛い子供との幸せを得ることができた。
そう思うことにするわ。
<終わり>
4,125
お気に入りに追加
3,504
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

【完結】婚約破棄? 正気ですか?
ハリネズミ
恋愛
「すまない。ヘレンの事を好きになってしまったんだ。」
「お姉様ならわかってくれますよね?」
侯爵令嬢、イザベル=ステュアートは家族で参加したパーティで突如婚約者の王子に告げられた婚約破棄の言葉に絶句した。
甘やかされて育った妹とは対称的に幼い頃から王子に相応しい淑女に、と厳しい教育を施され、母親の思うように動かなければ罵倒され、手をあげられるような生活にもきっと家族のために、と耐えてきた。
いつの間にか表情を失って、『氷結令嬢』と呼ばれるようになっても。
それなのに、平然と婚約者を奪う妹とそれをさも当然のように扱う家族、悪びれない王子にイザベルは怒りを通り越して呆れてしまった。
「婚約破棄? 正気ですか?」
そんな言葉も虚しく、家族はイザベルの言葉を気にかけない。
しかも、家族は勝手に代わりの縁談まで用意したという。それも『氷の公爵』と呼ばれ、社交の場にも顔を出さないような相手と。
「は? なんでそんな相手と? お飾りの婚約者でいい? そうですかわかりました。もう知りませんからね」
もう家族のことなんか気にしない! 私は好きに幸せに生きるんだ!
って……あれ? 氷の公爵の様子が……?
※ゆるふわ設定です。主人公は吹っ切れたので婚約解消以降は背景の割にポジティブです。
※元婚約者と家族の元から離れて主人公が新しい婚約者と幸せに暮らすお話です!
※一旦完結しました! これからはちょこちょこ番外編をあげていきます!
※ホットランキング94位ありがとうございます!
※ホットランキング15位ありがとうございます!
※第二章完結致しました! 番外編数話を投稿した後、本当にお終いにしようと思ってます!
※感想でご指摘頂いたため、ネタバレ防止の観点から登場人物紹介を1番最後にしました!
※完結致しました!

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

【完結/短編】いつか分かってもらえる、などと、思わないでくださいね?
雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
宮廷の夜会で婚約者候補から外されたアルフェニア。不勉強で怠惰な第三王子のジークフリードの冷たい言葉にも彼女は微動だにせず、冷静に反論を展開する。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました
来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」
突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・
サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる