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しおりを挟む本来であれば、離婚後は一度実家に戻って報告するはずだった。
だけど、一度実家に帰ってしまえば領地へと連れ去られてしまうことは間違いない。
なので、サラーナは行方をくらますことを選んだ。
離婚後、半年経つと再婚できる。なので、再婚後に一度実家には連絡をするつもり。
それまでは部屋を借りた。借りてはいるが、住むつもりはない。目くらましのようなもの。
住むのはクルズ先生のところだから。
もちろん、2人きりではない。
ジェファーソン先生夫妻もいるし、息子となるジャックと使用人たちもいる。
部屋も客間を準備してもらっている。
一人で暮らせるほど家事はできないし、貴族女性の一人暮らしは物騒でもあるからだ。
離婚歴のあるサラーナに、今更体裁も何も気にすることはなかった。
そもそもジェファーソン先生たちも貴族としての社交など特にしていないため、サラーナが結婚前から一緒に住んでいたとしても話題にもなりはしないのだから。
待ち合わせ場所にいたクルズ先生と彼の腕に抱かれたジャックと合流して家に向かった。
荷物はすでに何回かにわけて運び入れている。
初めて手を繋いで、幸せな気持ちだった。
独身に戻ったことで後ろめたさがなくなり、また新たな生活が始まったと嬉しくなった。
ジェファーソン先生夫妻とも一緒に歓迎会という名の食事を終え、部屋までクルズ先生が送ってくれた。
「疲れた?」
「大丈夫。実家から解放された時とは違う解放感で気分がいいわ。」
「結婚生活は無理してた?」
「そんなことはないわ。楽だったし、自由もあった。実家と比べて最高だったわ。」
「詳しいことは知らないけれど、サラーナ様が苦痛を感じる10年でなくてよかった。」
「サラーナって呼んで。」
「サラーナ。じゃあ、僕のこともクルズで。」
「クルズ。」
医師と患者ではない、新たな呼び方をしてクスクスと笑った。
それから初めてのキスをした。
『初めて』だと伝えると、クルズは驚いた後、『嬉しい』と言って2回目は少し長いキスをした。
結局、初夜も結婚まで待てなくて少し早くなってしまった。けど、幸せな気持ちだった。
契約結婚生活はそれなりに楽しかったし、軟禁されていた暮らしから自由になれて嬉しかった。
だけど、愛し愛されることを知ってしまった今、戻ってもあの暮らしを楽しく感じないだろう。
なんと欲張りになってしまったのだろう。この温もりはもう手放せない。
命の危険を冒してまで我が子が欲しいと2人とも思っていないため、避妊は徹底することにした。
クルズと2人で生きていく人生も幸せになれたと思う。
だけど、私たちにはジャックがいる。
サラーナとは血が繋がっていないが、クルズに似たジャックをとても愛しいと思えた。
親子として暮らせば、親子になれるのだ。
そう思えば思うほど、契約を盾にロゼリアとほとんど交流しなかったことを少し悔やむことになった。
親しくなれば別れがつらくなる。それは間違いないが、交流の仕方を考えればよかったのかもしれない。
今更どうすることもできない。後は後妻のルミアにロゼリアを任せるしかないのだから。
正直、ゲオルド様はあてにならないから。
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