上 下
21 / 31

21.

しおりを挟む
 
 
離婚まであと少しだというのに、1年目のイリンさんとの顔合わせの件以外、平和に穏やかに暮らしてきたというのに、最後の最後に問題が起こった。

サラーナの部屋の近くで何やら人が揉め合っている声がした。

そして、いきなり部屋の扉が開いたと思ったら、ロゼリアが入ってきた。


「あんたが、あんたのせいよー!!!」


……何のこと?それに、『あんた』って伯爵令嬢が口に出して良い言葉ではないわよ?


「どうしたの?私はあなたに何かした覚えはないのだけど?」


一応、自分の娘ということになっている9歳になったロゼリアをソファに座るように促した。


「あんたがいたから、私のお母さんはこの家で暮らせなかったんでしょ?だから寂しくてお父様ではない男の人と暮らすことになったって……」


サラーナは驚いた。間違った情報もあるけれど、誰がこの子に教えたの?
チラッと部屋の隅でサラーナの侍女と一緒にいるロゼリアの侍女を見てみると、顔色が悪かった。
……犯人はアナタね。寂しくて、というのはアナタの憶測を口にしたのだわ。

 
「ロゼリアは自分の産みの母親が別にいることは知っているのね?お父様から聞いたの?」


もう9歳だから、さすがに家族構成がおかしいってことに気づいたのかしら?
たまに会う私が父親の妻だとは知っていても自分の形だけの母親とは説明していないはず。
ロゼリアには母親という存在がいないままのはずだったから。


「……誰からかは忘れた。小さかったから。お父様に聞いたら『そうだ』って言ったわ。お母さんに会いたいって言ったけど無理だって言われたの。だけど、お父様が手紙を貰ってきてくれた。」

「手紙?ロゼリアはお母さんから手紙を受け取っていたの?」


ずいぶん前から母親が別に住んでいることは知っていたのね。


「そう。小さい頃はお父様が読んでくれた。字が書けるようになってからは私も書いてお父様に渡した。2年前くらいからはお父様に読んでもらわずに自分で読み始めた。」

「お母さんからの手紙にはどんなことが書いてあったの?」

「最初の頃は、『大きくなったかな?』とか『会いたい』とか似た感じ。だけど、私が聞きたいことを書いた手紙の返事をくれるようになって一緒に暮らしたいのに暮らせないのはあんたのせいだって書いてあった。
おばあ様は違うって言ったけど、お母さんはいろいろ教えてくれた。
ひと月かふた月に一度手紙をくれていたのに、最近ないからお父様に聞いたの。そしたら、お父様と別れて別の男の人と暮らすことになったから、もう手紙は書かないだろうって。
だからあんたのせいよ。あんたがお父様の妻をやめたらお母さんと一緒に暮らせたのにっ!」 


うーん。いろいろと間違っている。
 
手紙の内容をずっと確認しなかったのはゲオルド様の落ち度だわ。

おそらく、ロゼリアへの手紙で他の誰も読んでないことを確認した上で嘘を書き始めたのでしょうね。

私が母親として嫌われるように。

私とロゼリアが母娘として接していないことをイリンさんは知らなかったのかしら。
まぁ、ゲオルド様がイリンさんの前で私の話をするわけがないか。
私に扮したエマに怯えて泣いたし、虐められるなんて言い出したイリンさんに伯爵家の内情は伝えるわけはないわね。 

 
ゲオルド様を取られないように牽制したり、娘に嘘を吹き込んだり、イリンさんの仕掛けることはすぐに嘘だとバレるようなものなのだけど、話が外に漏れると社交界で噂されるのよね。

愛人に嫉妬した妻という策は失敗したけれど、今度は妻の座にしがみついて継娘と実母を引き離したと思わせたかったのかしら? 

まだ伯爵家で暮らすことを諦めていなかったのね。

だけど、浮気がバレてゲオルド様とお別れしたから、ロゼリアの利用価値もなくなったってことね。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)婚約解消からの愛は永遠に

青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。 両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・ 5話プラスおまけで完結予定。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

(完結)無能なふりを強要された公爵令嬢の私、その訳は?(全3話)

青空一夏
恋愛
私は公爵家の長女で幼い頃から優秀だった。けれどもお母様はそんな私をいつも窘めた。 「いいですか? フローレンス。男性より優れたところを見せてはなりませんよ。女性は一歩、いいえ三歩後ろを下がって男性の背中を見て歩きなさい」 ですって!! そんなのこれからの時代にはそぐわないと思う。だから、お母様のおっしゃることは貴族学園では無視していた。そうしたら家柄と才覚を見込まれて王太子妃になることに決まってしまい・・・・・・ これは、男勝りの公爵令嬢が、愚か者と有名な王太子と愛?を育む話です。(多分、あまり甘々ではない) 前編・中編・後編の3話。お話の長さは均一ではありません。異世界のお話で、言葉遣いやところどころ現代的部分あり。コメディー調。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...