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しおりを挟む離婚まであと少しだというのに、1年目のイリンさんとの顔合わせの件以外、平和に穏やかに暮らしてきたというのに、最後の最後に問題が起こった。
サラーナの部屋の近くで何やら人が揉め合っている声がした。
そして、いきなり部屋の扉が開いたと思ったら、ロゼリアが入ってきた。
「あんたが、あんたのせいよー!!!」
……何のこと?それに、『あんた』って伯爵令嬢が口に出して良い言葉ではないわよ?
「どうしたの?私はあなたに何かした覚えはないのだけど?」
一応、自分の娘ということになっている9歳になったロゼリアをソファに座るように促した。
「あんたがいたから、私のお母さんはこの家で暮らせなかったんでしょ?だから寂しくてお父様ではない男の人と暮らすことになったって……」
サラーナは驚いた。間違った情報もあるけれど、誰がこの子に教えたの?
チラッと部屋の隅でサラーナの侍女と一緒にいるロゼリアの侍女を見てみると、顔色が悪かった。
……犯人はアナタね。寂しくて、というのはアナタの憶測を口にしたのだわ。
「ロゼリアは自分の産みの母親が別にいることは知っているのね?お父様から聞いたの?」
もう9歳だから、さすがに家族構成がおかしいってことに気づいたのかしら?
たまに会う私が父親の妻だとは知っていても自分の形だけの母親とは説明していないはず。
ロゼリアには母親という存在がいないままのはずだったから。
「……誰からかは忘れた。小さかったから。お父様に聞いたら『そうだ』って言ったわ。お母さんに会いたいって言ったけど無理だって言われたの。だけど、お父様が手紙を貰ってきてくれた。」
「手紙?ロゼリアはお母さんから手紙を受け取っていたの?」
ずいぶん前から母親が別に住んでいることは知っていたのね。
「そう。小さい頃はお父様が読んでくれた。字が書けるようになってからは私も書いてお父様に渡した。2年前くらいからはお父様に読んでもらわずに自分で読み始めた。」
「お母さんからの手紙にはどんなことが書いてあったの?」
「最初の頃は、『大きくなったかな?』とか『会いたい』とか似た感じ。だけど、私が聞きたいことを書いた手紙の返事をくれるようになって一緒に暮らしたいのに暮らせないのはあんたのせいだって書いてあった。
おばあ様は違うって言ったけど、お母さんはいろいろ教えてくれた。
ひと月かふた月に一度手紙をくれていたのに、最近ないからお父様に聞いたの。そしたら、お父様と別れて別の男の人と暮らすことになったから、もう手紙は書かないだろうって。
だからあんたのせいよ。あんたがお父様の妻をやめたらお母さんと一緒に暮らせたのにっ!」
うーん。いろいろと間違っている。
手紙の内容をずっと確認しなかったのはゲオルド様の落ち度だわ。
おそらく、ロゼリアへの手紙で他の誰も読んでないことを確認した上で嘘を書き始めたのでしょうね。
私が母親として嫌われるように。
私とロゼリアが母娘として接していないことをイリンさんは知らなかったのかしら。
まぁ、ゲオルド様がイリンさんの前で私の話をするわけがないか。
私に扮したエマに怯えて泣いたし、虐められるなんて言い出したイリンさんに伯爵家の内情は伝えるわけはないわね。
ゲオルド様を取られないように牽制したり、娘に嘘を吹き込んだり、イリンさんの仕掛けることはすぐに嘘だとバレるようなものなのだけど、話が外に漏れると社交界で噂されるのよね。
愛人に嫉妬した妻という策は失敗したけれど、今度は妻の座にしがみついて継娘と実母を引き離したと思わせたかったのかしら?
まだ伯爵家で暮らすことを諦めていなかったのね。
だけど、浮気がバレてゲオルド様とお別れしたから、ロゼリアの利用価値もなくなったってことね。
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