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しおりを挟む数か月後、イリンさんは女の子を産んだ。
ロゼリアと名付けられた女の子は、クルーシャ伯爵家で乳母たちの手で育てられている。
サラーナは、もちろん会っていない。赤ちゃんだし会っても構わないけれど、契約だから。
イリンさんは半月後、別宅を出て再び一人暮らしを始めることになった。
詳しくは知らないが、別宅を出るのにかなり抵抗したらしい。
具合が悪いからまだ使用人が必要だと叫ぶわりには、ものすごい力だったとか。
ゲオルド様は変わらずイリンさんの元に通っているという。
それは変わらない愛ゆえか、意固地になってまでイリンさんを求めた惰性ゆえか。
それをサラーナが知ることはない。
イリンさんのことをゲオルド様に聞くこともなければ、ゲオルド様が話すこともないからだ。
サラーナは必要な時だけ、ゲオルド様と共に社交場に出る。
お義母様と、又は一人でお茶会に出る。気の合う友人もできた。
イリンさんとのことがあった以外、サラーナは自由だった。毎日が楽しかった。
その暮らしを続けて、契約の10年まであと数か月という時期になった。
「サラーナ、もうすぐ10年になるな。離婚、でいいのか?母も楽しそうだし、継続してもいいが。」
「離婚で構いません。ロゼリアは来年からお茶会に出るでしょう?ろくに話したこともない私が付き添うのはロゼリアも嫌でしょう。ちょうどいいので再婚なさったらいかが?」
ゲオルド様は、イリンさんとお別れした。
数か月前、イリンさんが浮気をしているところに出くわしたそうだ。
その男とはもう6年の付き合いだったとか。まぁ、それ以前にも浮気相手はいたかもしれないけど。
イリンさんは出産後、働いていたけれど暮らしは楽だった。
部屋代や生活費はゲオルド様が払っていたからだ。
そして高級な物ではなくともアクセサリーや服もゲオルド様が買っていた。
平民の中では、生活水準は高い方だ。
だが、やはり毎日通ってこない愛人を待つのは寂しかったのだろうか。
あるいは、金づるとしてバレるまで利用しようとしたのだろうか。
そこは私は聞いていない。聞いても仕方のないことだから。
「再婚、か。」
ゲオルド様はイリンさんをもっと早く自由にしなかったことを悔いていた。
もっと綺麗な別れ方ができたはずなのに、自分の過ちを認めたくなかったのだろう。
「未亡人や婚期を逃した30代の方とかで探されてはいかがです?ロゼリアの義母として面倒見てくれそうな方を。家庭教師をされている方とかだと教育面でも頼りになりそうですね?」
聞くところによると、ロゼリアは勉強嫌いだそうだ。
礼儀作法も教えればその場ではできるが、すぐ忘れてしまうそうだ。
クルーシャ伯爵家の跡継ぎだというのに困っていると耳にした。
「家庭教師か。それも一つの案だな。だがなぜ30代なんだ?」
「あら。ゲオルド様はロゼリアに見切りをつけるのですか?」
「そんなつもりは……あぁ、そういうことか。20代だと自分の子供を跡継ぎにしたくなるか。」
子供を作る気はないと言っていても、20代だと『つい』、『うっかり』で妊娠を狙う可能性がないとも限らない。
30代は自分の命の危険を冒してまで出産する気などないから。
それに、ゲオルド様は37歳ですよ?釣り合いのとれる妻がお似合いです。
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