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ゲオルド様は少し落ち込んでいたが、納得したようだった。


「貴族と平民、何度も両親から諭されたけれど、今頃になって身分差を実感したよ。
イリンと別れられないのであれば、本来ならば私が平民になる覚悟が必要だったのに、妻である君を巻き込んで迷惑をかけたってことだね。だからって今更平民にもなれない。愚かだった。」

「お義母様たちも葛藤されたと思いますよ。親戚から養子をとることも考えていたそうです。ですが、息子であるあなたの子供の可能性を捨て切れなかった。もっと早く、イリンさんとの間に庶子をつくるのではないかと思っていたそうです。妻不在のまま、庶子として育つ子供のことを考えると憂鬱だった、と。」

 
庶子として育つ子と、庶子だとわかっていても嫡子扱いされる子は、同じ愛人の子供でも格が違う。
そして更に、母親が貴族ではないことを気にする貴族家とは付き合いが疎遠になることもあるのだ。
子供が惹かれ合っては困るから。


「私は自分のことしか考えていなかったのだな。
私の子供であっても母親が平民であれば侯爵家以上と縁を繋ぐ可能性はほぼないだろう。
我がクルーシャ伯爵家の格を落とすことになる。私より子供が辛い思いをすることになるんだな。」

「そうでしょうね。ですが、産まれてくる子供に罪があるわけではありません。
私の子供とするのですから、嫡子扱いになることで軽減されますよ。」

「……やはり、君が産んだことにするには無理があるか。」

「ありますね。ゲオルド様と夜会にも行きましたし、お義母様ともお茶会に出席しています。」

「どういうことだ?」

「わからないのですか?私が妊婦に見えます?」

「……そういうことか。」


ゲオルド様は頭を抱えてしまった。本当に気づいてなかったようだ。
数か月後に子供が産まれましたと報告して、誰が妻の子供と信じるというのか。
今更お腹に詰め物をして出歩いたところで手遅れだ。


「それに、私が形だけの妻だとみんなわかっていますから。ゲオルド様、何人にも白い結婚を打診していたでしょう?」

「……そうだった。私の子供は平民の愛人が産むということは誰もが知る事実ってことか。」
 
 
伯爵夫妻から何度も言われていたはずなのに、ゲオルド様はイリンさんと別れたくない気持ちが大きくて深く考えることがなかったのかもしれない。


「イリンさんに貴族の生活はさせられませんが、これまで通りゲオルド様が通われることでイリンさんは安心なさるでしょう。妊娠で不安定な気持ちになり出産後に捨てられたくないという思いからの言動だったと思いますので。」 


そうじゃないとわかっているけれど、そういうことにしましょうね。
ゲオルド様がイリンさんを望んだのだから、今更妊娠している彼女の手を放すことはできないでしょう?


「……ああ。すまなかった。サラーナが別人だったことはこのままイリンには隠しておく。正妻と愛人はお互いの顔を知らない方がいいとわかったよ。」


イリンさんは、本当は以前の一人暮らしでなく使用人がいる生活を望んでいたのだろうけど。

思ったよりもイリンさんはゲオルド様からの愛情よりも立場やお金を求めているから、身分相応な暮らしに戻ってもらわないとね。
 
ゲオルド様が愛し続けるに相応しい女性とは言い難いけれど、人の好みはそれぞれだから、ね。


ひとまず、面倒事は落ち着いたかしら?

私にとって楽で自由な契約結婚。あと9年以上とまだまだ先は長いけど、もう何も起こらないよね?
 

 
 
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