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しおりを挟む夫であるゲオルド様から、週末にある夜会への同行を頼まれた。
必要最小限の社交にあたるので契約違反ではない。
だけど、いいの?私を連れて歩き回って。
あわよくば、子供を私が産んだ嫡子だと思わせたいのではなかったの?
どう見ても、私は妊婦ではないから誤魔化すことなんてできないけど?
そう思ったけれど、ゲオルド様には言わなかった。
正直、愛人の産んだ庶子を仕方なしに正妻の嫡子とすることは、ままある。
だけど大っぴらになっていなかったり、愛人も貴族籍だとあまり気にされない。
ゲオルド様の場合は、愛人が平民だと知っている人は多いと思う。
だから私が愛人の子供を嫡子にしても、実の母親が平民だと気づく人はそれなりにいる。
なので、平民の血を混ぜたくないという貴族家と、産まれた子供は縁を結ぶことはないだろう。
そして週末、夜会に向かう馬車の中でゲオルド様が言った。
「サラーナ、一度イリンに会ってもらえないかな。」
申し訳なさそうに言うのは、契約違反とわかっているからだろう。
「なぜでしょう?」
愛人と顔を合わせる必要がどこにあるのだろうか。
「イリンが……君に会ってみたい、と。子供の母親になってくれる人がどんな人なのか。」
「私を知ってイリンさんに何ができるのです?意味が分かりません。」
『あの人は嫌だ』とイリンさんが言えば、ゲオルド様は契約を破棄して私と離婚するつもりなのか?と聞いてみた。
「そんなつもりは、ない。だけど、会いたい、と。」
「無意味、ですわ。私は産まれてくる子供ともほとんど会うことはないでしょう。それなのにその母親と会う必要はもっと感じられません。
顔を知ってしまえば離婚した後、街で見かけてしまうかもしれません。その時、私はどう対応すればよろしいのでしょうか。普通に考えれば、ただ一度お会いしただけの元夫の愛人なので無視するでしょう。立ち止まって近況を聞く仲ではありませんから。ですが、イリンさんはどう思うでしょうか。無視されたとあなたに報告するのでは?」
「……だったら、無視せず君が話しかければいいんじゃないのか?」
「何の話を?」
「………………」
はぁ~っと思わずため息が出た。
「離婚しても私は貴族です。たとえ、その後一人で生きていくことになっても弟に迷惑をかけて貴族籍を抜かれることにならない限りは貴族でいるでしょう。イリンさんは私に気軽に声をかけることはできません。そして私もイリンさんに話しかける必要性を感じません。であれば、顔見知りになる意味はありません。」
ゲオルド様はしばらく何かを考えていた。そして唐突に言ったのだ。
「つまり、君は嫉妬してしまうからイリンと会いたくないってことか?」
何をどう解釈すればそういう結論に達したのか、非常に疑問だった。
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