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しおりを挟むゲオルド様の話はまだ終わっていなかった。彼は手元にあった書類の中から1枚引き出した。
「これは、君が望んだこの契約結婚の条件だ。君ではなく、君の両親が、かな。こちらが持ち掛けた伯爵の投資の件以外にもこれが呑めるのであれば、娘との結婚を了承すると言うことだった。」
サラーナはその書類を見せてもらった。母の字だった。これを元に契約書は作られたのだろう。
・月2回、ジェファーソン先生の往診を受けること
・伯爵令息夫人、後の伯爵夫人として扱われること
・夫婦での社交は最低限にすること
・金銭的に困らせないこと
・愛人と接触させないこと
・子供との接触は最低限であること
・できる限り、私室で穏やかに過ごさせること
……まぁ、何というか、母の言いそうなことだと思った。
母の言う私にピッタリという条件は、とにかく人との関わりは最小限で部屋で大人しく暮らせるようにということらしい。私がそれを望んでいると本気で思っているところが怖い。
チラッとゲオルド様を見ると、彼は苦笑した。
「何というか、君はそれなりに大事にされているようだね?」
彼にしてみれば、よくわからない両親だろうと思う。
病弱で手元に置いておくはずの娘を売るような結婚を強いたというのに、この甘やかした条件。
「別に、私は君を妻として冷遇するつもりはないから、この条件は全く困らないのだけどね。
あぁ、それともう一つあった。この結婚は10年契約だ。10年後、君がその後の生活に困らないだけの金はもう君の名前で準備してある。離婚したら使えるようになっているから安心してほしい。」
10年なのね。しかも、その後のお金までいただけるとは。実家に帰らずに済むわ。
「婚約期間もなく申し訳なかった。本当は結婚も半年後くらいで考えていたのだが、イリンが妊娠してね。
それでまずは入籍しないと、と思ってしまって。結婚式をあげたいなら1年後になるが、したいか?」
「……いえ、結構です。おめでとうございます。」
「ああ、ありがとう。君の子供だと思われると子供も困ることはないだろうと思ってね。」
ん?愛人の子供だけど嫡子にするってことじゃなく、私が産んだ子供だと思わせたいってこと?
それは少し無理があるような。
だって、今までずっと愛人の子供を嫡子にしてくれる令嬢を探していたのでしょう?
何人にその打診をしたの?
それに、私は子供が産めない病弱な令嬢と両親が言いふらしていたのよ?
社交界では、私は条件を受けた妻で、子供は愛人との子供だってバレるに決まっているのに。
まぁ、あわよくば、ってとこなのかな?貴族同士の子供の方が縁談は纏まりやすいだろうから。
それにしても10年かぁ。……いいんじゃない?
何も困らないわよね?好きでもない夫の子供を産んで愛人と修羅場になりたくないし。
初めから夫の愛情を期待することもなく、貴族夫人としての生活が送れる。
実家で両親と弟と暮らすはずだったことを思えば最高じゃない?
「あ、ゲオルド様とイリンさんって何歳なのですか?」
「私は27歳でイリンは25歳だ。」
なるほど。確かに、初産で子供を産むのに焦り始める年齢なのはわかるわ。
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