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嫁ぐ前日には、両親と弟と一緒に独身最後の晩餐をとった。

でも、話しているのは両親ばかり。
『寂しくなる』と繰り返して言うが、両親の表情はそれほど悲痛な感じではなかった。

自分は両親にとって一体どんな存在だったのだろう。よくわからなくなった。




そして、嫁ぐ日、迎えに来たのは夫となる人ではなく使用人だった。


「クルーシャ伯爵家よりお迎えに参りました。サラーナ様、どうぞお手を。」


迎えに来てくれた人は、そのまますぐにサラーナを馬車に乗せて、別の使用人が荷物も積みこんで行く。 


「では参りましょう。ホピット伯爵夫妻様、失礼いたします。」

「ああ。サラーナ、元気でな。」

「サラーナ、具合が悪くなったら、すぐにジェファーソン先生を呼ぶのよ?」

「……はい。」


別れの挨拶はすでに済ませた。もう出てくる言葉は何もなかった。

そして馬車は出発した。

屋敷を離れるにつれ、解放された気分になった。

この結婚が、私にとっていいものかどうかはわからない。
だけど、一人で生きていく方法を見つけて、いつかはあの家を出るつもりだったのだ。

一先ず、あの家を出ることができた。それがこの結婚の最大の利点かもしれない。 

クルーシャ伯爵家。聞き覚えがあるような、ないような。

そこで待ち受ける訳ありに違いない結婚はどんなものだろうか。
なぜかそれほど悪いことではない気がした。





クルーシャ伯爵家に到着し、数人の使用人に挨拶されながら応接室へと入れられた。
お茶を入れてもらい、夫となる人を待ちながら周りを伺ってみると、そこそこ裕福な伯爵家であることは間違いないと感じた。両親の損失を埋める金を渡したくらいなのだ。落ちぶれているはずがない。

そこへ、扉が開いた。


「待たせてすまない。ゲオルド・クルーシャだ。ここに君のサインを。」


挨拶をする前に渡された紙とペン。さっさと婚姻届にサインをしろと言うことらしい。
今更なかったことにして帰るわけにもいかないので、サインをして渡した。


「これで、君はサラーナ・クルーシャだ。
ここでの過ごし方は事前に君のご両親と契約した内容に沿うよう使用人にも言い聞かせている。質問は?」


契約した内容?なにそれ?


「あの、ゲオルド様とお呼びしてもよろしいでしょうか?実は私、3日前に両親から嫁ぎ先を見つけたと言われただけで、契約の内容のことは何も知りません。失礼ですが、あなたのお名前も今初めて聞きました。」


ゲオルド様はポカーンとしていた。何を言っているのだ?お前は。みたいな。

彼はサラーナよりも10歳近く上だろうか。思っていたよりも若かった。


「この結婚が、契約結婚だと知らないということか?はははっ。ご両親の独断があの契約内容なのか。 
君の意思だとばかり思っていたよ。」


そう言ってゲオルド様は笑った。

リックス曰く、私はお金で売られたらしいけど契約結婚だったのね。





  




 
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