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しおりを挟む王妃様は、私に王太子妃教育の記憶がないと知り、驚いて言葉が出ないようだった。
そんな王妃様に、国王陛下が言った。
「王妃よ。先ほど自分が言った言葉を覚えているか?
ダリウスの歳を考えるとこれ以上結婚を遅らせるのは王家の恥だと言ったことを。
現時点で王太子妃教育を終えている者はダリウスの恋人である伯爵令嬢のみ。
予定通り、来年に結婚式をするためにダリウスの婚約者をかの伯爵令嬢とする。
アンジェリーナとの婚約は白紙撤回とする。
これは決定だ。」
アンジェリーナとの婚約が解消ではなく白紙撤回だというのは、アンジェリーナの経歴に傷をつけないためでもあるが、王太子殿下が2度も婚約解消しているというのは外聞が悪いからである。
それに元から白紙が決まっていた婚約であったと他貴族にも知らしめるためだった。
「嫌よ!あの子と毎日顔を合わせることになるなんて。目障りだわ!」
「……そうか。ならば、王妃はダリウスの結婚式を待つ必要はないな。
病気療養として東にある王領の屋敷にて静養を言い渡す。準備でき次第、旅立つがよい。」
国王陛下は王妃様を見限ったのね。
未来を担う王太子殿下たちを選んだ。
息子の幸せよりも自分を優先する王妃に嫌気が差したんだと思うわ。
しかも、近くの離宮じゃなくて遠く離れた場所だなんて、王妃様が最後に言われた『目障り』が決定打ってところかしら。
「………どうして私が出ていかなければならないのよ。」
「ダリウスは知らんだろうが、私はお前がなぜ伯爵令嬢を嫌うのかを知っているぞ?
私も伯爵令嬢に会った時にはな、驚いたよ。
お前が嫌いだった令嬢にそっくりだったからな。
つまり、彼女が侯爵令嬢になったとしても、お前は難癖つけて認めなかっただろうな。」
王妃様はまさか知られているとは思っていなかったのか、動揺していた。
国王陛下は王妃様を見限ってスッキリしたのか、王妃様の過去を暴露し始めた。
王妃は元侯爵令嬢で、学園に入学する前から当時の王太子殿下である国王陛下の婚約者だった。
プライドが高く、王太子殿下の婚約者であることを当然のように思っていた。
しかし、学園に入学後、王妃はある令息に恋をしてしまった。
それがダリウスの恋人の父親である伯爵令息だった。
その伯爵令息には婚約者がいた。
それは王妃と同じ侯爵令嬢で、2人は相思相愛の婚約者に見えた。
同じ侯爵令嬢でも、王太子殿下の婚約者と伯爵令息の婚約者。
将来の地位には開きがあり、羨まれるのは王妃のはずだ。
なのに、伯爵令息に愛されて幸せそうな侯爵令嬢が許せなかった。
王妃は地味な嫌がらせをして憂さ晴らしをする。
だが、令嬢は泣きもせずに気丈に振る舞う。
それに、2人を別れさせるほどの嫌がらせをする度胸もなかった。
予定通り、王家に嫁いでダリウスも生まれた。
だが、王家主催の夜会では、あの伯爵令息を目で追い続ける。
隣にいる彼の妻を憎々しく思いながら。
それは今でも続いている。
やがてダリウスに婚約者ではない好きな人ができた。
元々、婚約者であった公爵令嬢とダリウスの仲が良くないことは聞いていた。
円満に婚約解消となるのであれば、問題はない。
しかしそれは、ダリウスの恋人に会ってからの判断となった。
ダリウスが連れてきた恋人は、王妃が好きだった伯爵令息の娘だった。
驚くほど、王妃が嫌っていた学生時代の侯爵令嬢にそっくりだったのだ。
国王陛下は一目見て、王妃が令嬢を嫌うだろうとわかった。
国王陛下は賛成、王妃は反対。
ダリウスの婚約者変更は暗礁に乗り上げた。
「もし、あの伯爵令嬢がお前の好きだった男に似ていたのなら結婚に賛成できたのか?
いや、それでも産んだのが嫌いだった令嬢だと思えば憎くなったか?」
王妃様は国王陛下の言葉に答えなかった。
愛する人に似ていたとしたら愛憎相半ばといったところでしょうが、実際は母親似。
お気の毒なのは、そんな理由で婚約を認めてもらえなかった王太子殿下たちよね。
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