10 / 13
10.
しおりを挟む数日が経ち、体中の痛みがほとんどなくなった頃、王家からの呼び出しがあった。
婚約の白紙撤回とアデルとの婚約手続き、そして階段から突き落とされた経緯についてということだった。
記憶は戻らないけれど、ひとまず面倒事は解決しそうだと嬉しい気分で両親とお兄様も一緒に王城へ向かった。
お兄様は捻挫している足に負担をかけるのはよくないと、いつも抱き上げて運んでくれる。
アデルが何度か代わりたそうにしていたけれど、まだ王太子殿下の婚約者であったために使用人の噂になることは避けていた。
案内された部屋の中には、アデルもいた。隣にいるのはアデルの両親だと思う。
婚約の手続きをするために、来ているのだと思った。
「アンジェさん、私はアデルの母よ。
顔色が良くて安心したわ。アデルから聞いてはいたけれど、心配だったの。
お見舞いにも行きたかったけれど……」
「まだアデルの婚約者ではないから立場がややこしくてな。
私はアデルの父だ。記憶は戻らないか?私を見て思い出したら面白かったのにな。」
アデルのお父様はなかなか楽しい人らしい。
確かに、何がキッカケで思い出すかはわからないけどね。
やがて、両陛下と王太子殿下が入ってきた。
挨拶を終えた後、国王陛下が話し始めた。
「此度のアンジェリーナ嬢の事件の詳細から説明しよう。
一端は王妃にも原因があることがわかった。申し訳ない。」
あら。王妃様も関わってらしたのね。
王妃様は自分は悪くないと思っているような顔をしている。
捕らえられていないということは、犯罪を犯したわけではないのね。
「スザンヌというアンジェリーナ嬢を突き落とした女には恋人がいた。
王妃はその恋人という男に女性を仕掛けたんだ。」
「別に違法じゃないわ。」
「そうだな。違法ではない。酔った男の落ち度だ。
酔ってスザンヌに似た女性と関係を持ってしまった男はスザンヌに隠したまま関係を続けた。
そして女性が妊娠してしまったために、男はスザンヌと別れたんだ。」
なるほど。スザンヌ様は令嬢で学生だから手は出せない。
だけど、関係を持った女性に再度誘われると一度も二度も同じかと思ってしまった。
スザンヌ様が卒業するまでの関係のつもりが、女性の妊娠によって別れることになったのね。
「男と別れたスザンヌは、目の前にいたアンジェリーナ嬢を見て思ったそうだ。
『彼女がいなくなればアデルが手に入る』と。
そして、思わず背中を押して突き落としてしまったと言った。
スザンヌが男と別れたことを知った親が、アデルを手に入れるようにと迫ったらしい。
そんなつもりはなかったのに、親の言葉を思い出してしまい、手が動いたそうだ。」
きっと、本当にアデルが手に入ると思っての行動じゃないのね。
心が弱っている時に私を見て、親の言葉を思い出した。
本当に狙っていたら、人が見ている前で突き落とすなんてできないもの。
気の毒に思えてきたわ。
でも、王妃様はスザンヌ様から恋人を奪って何がしたかったの?
「王妃は、スザンヌとアデルが婚約すればアンジェリーナ嬢がダリウスと結婚すると思ったそうだ。」
あぁ、2人の噂を誰からか聞いたのね。
恋人と別れたら、スザンヌ様が噂通りにアデルの婚約者になることを望むと思った。
あと少しで卒業だもの。それまでに婚約者をと考えればアデルを狙うってことね。
ひょっとしてアデルを手に入れるようにとご両親が言ったのも、王妃様の手の者がスザンヌ様とアデルの噂を伝えていたのかもしれないわね。
だけど、思った以上にスザンヌ様は恋人を愛していて、裏切られたショックが大きかったのだわ。
632
お気に入りに追加
1,819
あなたにおすすめの小説

婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。

【完結】「お姉様は出かけています。」そう言っていたら、お姉様の婚約者と結婚する事になりました。
まりぃべる
恋愛
「お姉様は…出かけています。」
お姉様の婚約者は、お姉様に会いに屋敷へ来て下さるのですけれど、お姉様は不在なのです。
ある時、お姉様が帰ってきたと思ったら…!?
☆★
全8話です。もう完成していますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。

【完結】どうぞお気遣いなく。婚約破棄はこちらから致しますので。婚約者の従姉妹がポンコツすぎて泣けてきます
との
恋愛
「一体何があったのかしら」
あったかって? ええ、ありましたとも。
婚約者のギルバートは従姉妹のサンドラと大の仲良し。
サンドラは乙女ゲームのヒロインとして、悪役令嬢の私にせっせと罪を着せようと日夜努力を重ねてる。
(えーっ、あれが噂の階段落ち?)
(マジか・・超期待してたのに)
想像以上のポンコツぶりに、なんだか気分が盛り下がってきそうですわ。
最後のお楽しみは、卒業パーティーの断罪&婚約破棄。
思いっきりやらせて頂きます。
ーーーーーー

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。
どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。
だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。
短編。全6話。
※女性たちの心情描写はありません。
彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう?
と、考えていただくようなお話になっております。
※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。
(投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております)
※1/14 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる