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しおりを挟む数日が経ち、体中の痛みがほとんどなくなった頃、王家からの呼び出しがあった。
婚約の白紙撤回とアデルとの婚約手続き、そして階段から突き落とされた経緯についてということだった。
記憶は戻らないけれど、ひとまず面倒事は解決しそうだと嬉しい気分で両親とお兄様も一緒に王城へ向かった。
お兄様は捻挫している足に負担をかけるのはよくないと、いつも抱き上げて運んでくれる。
アデルが何度か代わりたそうにしていたけれど、まだ王太子殿下の婚約者であったために使用人の噂になることは避けていた。
案内された部屋の中には、アデルもいた。隣にいるのはアデルの両親だと思う。
婚約の手続きをするために、来ているのだと思った。
「アンジェさん、私はアデルの母よ。
顔色が良くて安心したわ。アデルから聞いてはいたけれど、心配だったの。
お見舞いにも行きたかったけれど……」
「まだアデルの婚約者ではないから立場がややこしくてな。
私はアデルの父だ。記憶は戻らないか?私を見て思い出したら面白かったのにな。」
アデルのお父様はなかなか楽しい人らしい。
確かに、何がキッカケで思い出すかはわからないけどね。
やがて、両陛下と王太子殿下が入ってきた。
挨拶を終えた後、国王陛下が話し始めた。
「此度のアンジェリーナ嬢の事件の詳細から説明しよう。
一端は王妃にも原因があることがわかった。申し訳ない。」
あら。王妃様も関わってらしたのね。
王妃様は自分は悪くないと思っているような顔をしている。
捕らえられていないということは、犯罪を犯したわけではないのね。
「スザンヌというアンジェリーナ嬢を突き落とした女には恋人がいた。
王妃はその恋人という男に女性を仕掛けたんだ。」
「別に違法じゃないわ。」
「そうだな。違法ではない。酔った男の落ち度だ。
酔ってスザンヌに似た女性と関係を持ってしまった男はスザンヌに隠したまま関係を続けた。
そして女性が妊娠してしまったために、男はスザンヌと別れたんだ。」
なるほど。スザンヌ様は令嬢で学生だから手は出せない。
だけど、関係を持った女性に再度誘われると一度も二度も同じかと思ってしまった。
スザンヌ様が卒業するまでの関係のつもりが、女性の妊娠によって別れることになったのね。
「男と別れたスザンヌは、目の前にいたアンジェリーナ嬢を見て思ったそうだ。
『彼女がいなくなればアデルが手に入る』と。
そして、思わず背中を押して突き落としてしまったと言った。
スザンヌが男と別れたことを知った親が、アデルを手に入れるようにと迫ったらしい。
そんなつもりはなかったのに、親の言葉を思い出してしまい、手が動いたそうだ。」
きっと、本当にアデルが手に入ると思っての行動じゃないのね。
心が弱っている時に私を見て、親の言葉を思い出した。
本当に狙っていたら、人が見ている前で突き落とすなんてできないもの。
気の毒に思えてきたわ。
でも、王妃様はスザンヌ様から恋人を奪って何がしたかったの?
「王妃は、スザンヌとアデルが婚約すればアンジェリーナ嬢がダリウスと結婚すると思ったそうだ。」
あぁ、2人の噂を誰からか聞いたのね。
恋人と別れたら、スザンヌ様が噂通りにアデルの婚約者になることを望むと思った。
あと少しで卒業だもの。それまでに婚約者をと考えればアデルを狙うってことね。
ひょっとしてアデルを手に入れるようにとご両親が言ったのも、王妃様の手の者がスザンヌ様とアデルの噂を伝えていたのかもしれないわね。
だけど、思った以上にスザンヌ様は恋人を愛していて、裏切られたショックが大きかったのだわ。
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