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しおりを挟むアデルからスザンヌ嬢がそばにいた経緯を聞いて、アンジェリーナは確認した。
「スザンヌ様がアデルに好意があったことはないのね?」
「ないな。彼女は腹立たしいほどに恋人とのデートでの話や美味しいお菓子の店とか話してた。
僕はほぼ聞き役で、誘われたこともないし縋られたり鬱陶しい視線を送ってくることもなかった。」
「じゃあ、彼女の異変はやっぱり恋人のことかしら。別れたのかもね。」
「ああ。僕もそうかもしれないと思って、捜査部門に助言はした。
まぁ、それがどうしてアンジェを突き落とすことになったかまではわからないけど。」
「う~ん。私である必要はなかったのかもよ?
幸せそうに見える人にイラっとしたとか。でも前の私って幸せそうに見えたのかな。」
「王太子殿下の婚約者で、来年結婚するとなると世間的には幸せに見えるんじゃないか?」
「そっかぁ。そうかも。たまたま前にいたからつい背中を押してしまったのかも。」
「一応、現時点ではまだ王太子殿下の婚約者だから、解明は早いと思う。
殿下はすぐにも婚約を白紙にすると言っていたから、僕たちも婚約できる。
けど……どうする?アンジェ。記憶のない君に婚約を強いることはしたくない。
だけど、僕は記憶がない君でも愛しているし、そばにいたい。
僕との婚約を考えてくれないか?」
以前の約束があるから、このままアデルと婚約することになるのだと思っていた。
だけど、ちゃんと記憶のない私に気遣ってくれるのね。
今の私がアデルとの婚約を断って、他の人と結婚したとする。
その後に前のアンジェリーナの記憶を思い出したら?
絶対に、どうして夫がアデルじゃないのかってパニックになりそうだわ。
そう告げると、アデルは想像したのか複雑そうな顔をして言った。
「じゃあ、前のアンジェリーナのためにも僕と婚約してほしいな。
もう誰にも取られたくないんだ。
のんびり付き合ってから婚約というわけにはいかない。
婚約してから、恋人になっていこう。」
「ええ。それがいいわね。」
前のアンジェリーナが好きだった人。
感情は全く覚えていないけれど、私はまた彼を好きになるのだろう。
そんな予感がした。
アデルはいろいろと学園の話も教えてくれた。
教師のこと、クラスメイトのこと、私の友人のこと、授業での出来事。
おそらく、次に学園に通う前には王太子殿下との婚約は白紙となりアデルとの婚約が成立している。
なので、学園では一緒にいられるから記憶がなくても不安に思う必要はない。
そう言いながらも、説明してくれるアデルはとても優しい人だと思った。
ふと思った。
王太子殿下との婚約後、学園では誤解されないようにあまり近づかない関係だったと言っていた。
ということは、3年近くも私たちは疎遠だったということ?
「違うよ。僕は毎週のようにここに来ていたからね。
ルシアン殿に会いに来ているように見せかけて、アンジェと普通に会っていたんだ。
侍女たちには詳しく話していないから、幼馴染の延長のように思っていたんじゃないかな。」
なるほど。だから、ララは中途半端な感じだったのね。
全部話してしまうと、王族が関わっている内容が万が一漏れた時にララが罰せられるかもしれないから。
王太子殿下に恋人がいることは知っていても、来年の結婚式は私とのことだと思っていたから予定が変わるかもしれないと知って戸惑っていたし。
伯爵令嬢の恋人は側妃になると思われていたから、2人が一緒に出掛けた話もララは耳にしただろう。
敢えてなのか、婚約間近だったアデルと私がここでお茶を飲んでいても幼馴染ということで当たり前のようにアンジェリーナは振る舞っていたのかもしれない。
形だけでも王太子殿下の婚約者でありながら、意外と大胆なことをしていたのだと思った。
まぁ、巻き込まれたんだからそれくらいは許容範囲かしらね。
そう思うと、殿下の前の婚約者の公爵令嬢は私に押し付けて逃げたって感じよね。
ズルいわ。
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