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しおりを挟む王妃様の伯爵令嬢に対する嫌がらせのことを考えていたけれど、ふと先ほどお母様が言った『目くらましの婚約者』という言葉を思い出した。
「お母様、私が『目くらましの婚約者』というのはどういう意味でしょうか。」
「それはね、王妃様を欺くつもりだったということよ。」
不敬なことを言うお母様に驚いた。そして、知っている人は極僅かだと話してくれた。
ダリウス王太子殿下には公爵令嬢の婚約者がいた。
しかし、公爵令嬢には昔から好きな人がいて、ダリウス殿下との結婚を拒んでいた。
2人の交流は冷めたもので、仲が良くないことは周知の事実だった。
そんな時、入学した学園でダリウス殿下は伯爵令嬢を好きになった。
1年かけて、伯爵令嬢を口説き落とした。
公爵令嬢も喜んでくれて、ダリウス殿下は公爵令嬢との婚約解消して伯爵令嬢と結婚したいということを両陛下に告げた。
しかし、父は許したが母が許さなかった。
婚約解消ができないまま半年が過ぎ、公爵令嬢がしびれを切らした。
自分が解放されるために、公爵令嬢は王妃に案を出したのだ。
『ダリウス殿下に新しい婚約者を。そして伯爵令嬢を側妃に』
公爵令嬢が提案した新しい婚約者が、侯爵令嬢であるアンジェリーナだった。
ダリウス殿下の友人であるルシアンの妹。
2歳下ということもあり、結婚はまだ先になる。ということは側妃になれるのも……
公爵令嬢の提案の意味を汲み取った王妃は、喜んでその案を採用した。
伯爵令嬢を側妃にするなら許すと歩み寄りの姿勢を見せたのだ。
こうして、ダリウス殿下と公爵令嬢の婚約は円満に解消された。
ちなみに公爵令嬢は、学園卒業後すぐに好きな人と結婚している。
そして、ダリウス殿下はアンジェリーナとの婚約が決まった。
アンジェリーナはこの3年間、王太子妃教育を受けている。
伯爵令嬢は側妃になる教育を受けていると思われているが、実際は王太子妃教育を受けていた。
この話は公爵令嬢が持ち掛けてきた。
王妃様を騙さなければ、伯爵令嬢は遠くに嫁がされてしまうだろうから早く手を打つ必要がある。
側妃に決まっているとなれば縁談は断れる。
その間に王太子妃教育を受け、王妃ではなく国王陛下を説得し了承を得て、予定された結婚式をアンジェリーナから伯爵令嬢へと婚約者を変更する。
王妃のいない場で、アンジェリーナとの婚約は白紙撤回、王太子妃教育を受けた伯爵令嬢を婚約者にすると公に発表してしまえば、王妃が何を言おうと取り消せない。
ついでにアンジェリーナとアデルの婚約も発表すれば、王太子殿下とアンジェリーナの婚約は初めから白紙になると計画されたものだとわかるだろう。
公爵令嬢が王太子殿下との婚約を解消したいがために練った案だったけど、採用されたのだ。
「ということは、私が本当に結婚する必要はなく、伯爵令嬢が王太子妃になるのですね。
私との婚約は白紙撤回が前提で、記憶を失う前の私も納得していた。」
だから王妃様を欺くための『目くらましの婚約者』ということなのね。
「ええ。あなたが学園を卒業する時に、婚約は白紙撤回になる予定だったの。
そして予定している結婚式はダリウス殿下と伯爵令嬢のもの。
だけど、極秘で動いていたのに結婚式の準備が始まったことで情報が漏れたようね。
王妃様は気づかれたようなの。
それが回りまわって、なぜかあなたが突き落とされることになったようなの。」
ララが言っていた、一年後の結婚式の状況が少し変わってしまったというのは相手が私から伯爵令嬢に代わっていると知って戸惑っていたのかしら。
「でも、それなら私が大怪我をしたり死んでいたりしたら王妃様も困るんじゃ……」
「そうなのよね。あなたが王太子妃になれなくなったら、王妃様にとって意味のない行動よね。
だからその辺をしっかりと犯人に聴取しているみたいね。」
「スザンヌ様って方が突き落としたのは間違いないのですね?
アデルと噂になっている人だって聞きましたけど。」
「そうねぇ。その辺はアデルに聞いた方がいいわ。私は詳しくは知らないから。
私にわかるのは、アデルはあなたに一途だってことね。
記憶が戻っても戻らなくても、アデルならあなたを大切にしてくれるわ。」
どうやらアデルは、お母様にすごく信頼されているみたい。
前の私もアデルと婚約する気だったのだから、アデルのことが好きだったのよね。
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