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しおりを挟む私が階段から突き落とされた件で、お父様とお兄様は何やら忙しくしているらしい。
全部片付いたら教えてくれるというのをおとなしく待つしかなかった。
体のあちこちが痛いので、学園もしばらく休むし、教科書を見てみると内容はわかったので勉強の方には記憶喪失も影響がないようでホッとした。
それに、家族以外の数人の人間関係がゴチャゴチャと曖昧であやふやなままになってしまっているけれど、実質その他の誰の名前も聞いていないので、真っ白な状態。
私って学園に友人がいたのかしら。なんて、疑問も感じている。
なぜなら、学園で階段から落ちたにも関わらず、誰からも音沙汰がないから。
やっぱり、王太子殿下の婚約者って付き合いにくいのかな?なんて……
そんなことを考えていると、お母様が部屋にやってきた。
「アンジェ、何か知りたいこと、聞きたいことはないかしら?」
「ちょうど今、考えていたのですが、私は学園で友人はいたのでしょうか。」
「ええ、いるわよ。あ、ごめんなさいね。お手紙やお見舞いの品もいただいていたの。
記憶がどうなるかがわからないから、当たり障りのないお返事をしておいたわ。
伝えるのを忘れていたわね。
学園ではアデル君もいるし、記憶がどうでも心配しなくて大丈夫よ。」
「アデルは……頼ってもいいのでしょうか。
私は王太子殿下の婚約者なのですよね?距離が近いと迷惑をかけませんか?」
「そうねぇ。この件が起こる前までは、誤解されないような距離感で接していたわ。
だけど、アンジェの怪我が治って学園に行けるようになる前に婚約は解消になるはずよ。
だからそこは心配しなくていいわ。」
「よくわからないのですが、一年後に結婚する予定だったのにこんなに簡単に婚約解消するのですね。
なら、なぜ王太子殿下と婚約することになったのか疑問に思います。」
「あぁ、そうね。面倒な経緯がそこにあるのよ。
アンジェは、目くらましの婚約者のようなものだったの。
ダリウス殿下の恋人を王太子妃にするためのね。」
「王太子妃にはできない方なのですか?」
「いえ、伯爵令嬢よ。王太子妃は伯爵令嬢以上とされているから問題はないのよ。
だけど、王妃様が嫌っていて許さないの。側妃になら許すと言われてね。」
王族の側妃に関する決まり事について、覚えている記憶の中にはなかったので説明してもらった。
『王太子は、婚姻3年以内に子供をもうけることができなければ側妃を娶ることが可能になる。
あるいは5年以内に男子が産まれなかった場合も側妃を娶ることができる。』
「……お母様、王太子殿下の恋人の伯爵令嬢は何歳なのですか?」
「ダリウス殿下と同い年よ。20歳ね。」
ということは、来年、私が殿下と結婚する頃には21歳になる。
それから更に3年待たなければ側妃にはなれない。24歳になってしまうということだ。
しかもそれは正妃に子供がいなかった場合の話。
例えば、私と3年間ずっと閨を共にせずに恋人が側妃になるのを待つというは可能である。
しかし、そうなれば側妃に必ず子供を産んでもらわなければならない。
すぐに妊娠しても25歳で初産となれば、体に負担はかかる。
産んだのが女の子だったりその後に子供が出来なければ、殿下は更に側妃をあてがわれるかもしれない。
あるいは欲望に負けて正妃を妊娠させてしまったら、しかも、男子が産まれたとしたら側妃は必要なくなるのだ。
そうなると、王太子殿下を待ち続けている恋人を側に置くためには子供を産まない愛妾にするしかない。
伯爵令嬢が愛妾になる。未婚で純潔の令嬢が。
そうなると、王太子殿下が伯爵令嬢に無体を働いたと捉えらえることになり評価が下がる。
王妃様がなぜ伯爵令嬢を嫌うのかはわからないけれど、そんなことをすれば伯爵令嬢だけでなく自分の子供である王太子殿下も辛い思いをすることになるのに。
どうしてそんなことをするのかしら。
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