上 下
5 / 13

5.

しおりを挟む
 
 
私が階段から突き落とされた件で、お父様とお兄様は何やら忙しくしているらしい。

全部片付いたら教えてくれるというのをおとなしく待つしかなかった。


体のあちこちが痛いので、学園もしばらく休むし、教科書を見てみると内容はわかったので勉強の方には記憶喪失も影響がないようでホッとした。

それに、家族以外の数人の人間関係がゴチャゴチャと曖昧であやふやなままになってしまっているけれど、実質その他の誰の名前も聞いていないので、真っ白な状態。

私って学園に友人がいたのかしら。なんて、疑問も感じている。
なぜなら、学園で階段から落ちたにも関わらず、誰からも音沙汰がないから。

やっぱり、王太子殿下の婚約者って付き合いにくいのかな?なんて……

そんなことを考えていると、お母様が部屋にやってきた。


「アンジェ、何か知りたいこと、聞きたいことはないかしら?」

「ちょうど今、考えていたのですが、私は学園で友人はいたのでしょうか。」

「ええ、いるわよ。あ、ごめんなさいね。お手紙やお見舞いの品もいただいていたの。
 記憶がどうなるかがわからないから、当たり障りのないお返事をしておいたわ。
 伝えるのを忘れていたわね。
 学園ではアデル君もいるし、記憶がどうでも心配しなくて大丈夫よ。」

「アデルは……頼ってもいいのでしょうか。
 私は王太子殿下の婚約者なのですよね?距離が近いと迷惑をかけませんか?」

「そうねぇ。この件が起こる前までは、誤解されないような距離感で接していたわ。
 だけど、アンジェの怪我が治って学園に行けるようになる前に婚約は解消になるはずよ。
 だからそこは心配しなくていいわ。」

「よくわからないのですが、一年後に結婚する予定だったのにこんなに簡単に婚約解消するのですね。
 なら、なぜ王太子殿下と婚約することになったのか疑問に思います。」

「あぁ、そうね。面倒な経緯がそこにあるのよ。
 アンジェは、目くらましの婚約者のようなものだったの。
 ダリウス殿下の恋人を王太子妃にするためのね。」

「王太子妃にはできない方なのですか?」

「いえ、伯爵令嬢よ。王太子妃は伯爵令嬢以上とされているから問題はないのよ。
 だけど、王妃様が嫌っていて許さないの。側妃になら許すと言われてね。」


王族の側妃に関する決まり事について、覚えている記憶の中にはなかったので説明してもらった。

『王太子は、婚姻3年以内に子供をもうけることができなければ側妃を娶ることが可能になる。
あるいは5年以内に男子が産まれなかった場合も側妃を娶ることができる。』


「……お母様、王太子殿下の恋人の伯爵令嬢は何歳なのですか?」
  
「ダリウス殿下と同い年よ。20歳ね。」


ということは、来年、私が殿下と結婚する頃には21歳になる。
それから更に3年待たなければ側妃にはなれない。24歳になってしまうということだ。
しかもそれは正妃に子供がいなかった場合の話。

例えば、私と3年間ずっと閨を共にせずに恋人が側妃になるのを待つというは可能である。
しかし、そうなれば側妃に必ず子供を産んでもらわなければならない。
すぐに妊娠しても25歳で初産となれば、体に負担はかかる。
産んだのが女の子だったりその後に子供が出来なければ、殿下は更に側妃をあてがわれるかもしれない。 

あるいは欲望に負けて正妃を妊娠させてしまったら、しかも、男子が産まれたとしたら側妃は必要なくなるのだ。
そうなると、王太子殿下を待ち続けている恋人を側に置くためには子供を産まない愛妾にするしかない。
伯爵令嬢が愛妾になる。未婚で純潔の令嬢が。
そうなると、王太子殿下が伯爵令嬢に無体を働いたと捉えらえることになり評価が下がる。


王妃様がなぜ伯爵令嬢を嫌うのかはわからないけれど、そんなことをすれば伯爵令嬢だけでなく自分の子供である王太子殿下も辛い思いをすることになるのに。

どうしてそんなことをするのかしら。
 




 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。 どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。 だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。 短編。全6話。 ※女性たちの心情描写はありません。 彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう? と、考えていただくようなお話になっております。 ※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。 (投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております) ※1/14 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

処理中です...