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しおりを挟む侍女のララから聞いた話は、以前の私、アンジェリーナがララに言った内容もあるのだと思う。
だけど、ララは侍女で当人ではない。
少しうっかり者にも思えるし、前の自分が話していないこともありそうだし。
なので、すべてを鵜呑みにするわけにはいかない。
記憶が戻れば問題ないのだろうけれど、いつ戻るのかはわからない。
中途半端な情報では、よくわからないので誰かにちゃんと説明してほしかった。
だけど、私を突き落としたと思われるスザンヌ様の事情を聞けば、経緯がある程度わかるはず。
今日は無理でも、近いうちに誰かが話してくれるはずだわ。
記憶を失っていても、それくらいはちゃんと聞いておきたい。
私の今後にも繋がりそうだし。
そう思っていると、部屋の外が騒がしくなっていた。
「見てきてくれる?」
ララにお願いして様子を伺っていると、戻ってきた。
「ルシアン様がアンジェリーナ様に会いたいと来られています。
自分を見たら、思い出すかもしれないからと言っています。
王太子殿下とアデル様も来られていますが、いかがなさいますか?」
ここまで来ていただいているのに、帰ってもらうのも申し訳ないわよね。
だけど、こんな姿のままで失礼じゃないのかな?
そうララに聞いた。
「アンジェリーナ様は素顔でも部屋着でもお綺麗ですので大丈夫です。
ではお入りいただきますね。」
あ、鏡で顔を確認したかったわ。
ララが3人の男性を部屋に入れた。
私室で良かったのかしら。普通、応接室とかじゃない?
まぁ、そうなると移動が大変になるわね。
あちこち痛いし、捻挫してるし。
3人は、タイプの違う男性たちだけど、モテそうな人たちだなぁと思った。
「アンジェリーナ、わかるかい?お兄様だよ。」
私の手を取ってそう言ったということは、この人が兄のルシアンということ。
ということは、煌びやかな衣装の人が王太子殿下で、シンプルな服の人がアデル様かな。
「ごめんなさい。どなたのことも思い出せないようです。」
アンジェ……そう悲痛そうに言ったのはアデル様かな。
うん。王太子殿下よりもアデル様の方が私の好みな気がするわ。今の私にはね。
「そうか。残念だが、そのうち記憶も戻るかもしれない。
戻らなくても、心配するな。ずっとここにいて構わないからな。」
そう言って、お兄様は抱きしめようとしたけれどララが止めた。
「っダメです。ルシアン様。
アンジェリーナ様は、頭と肩を打たれているのです。」
アンジェリーナの頭と肩を引き寄せようとしたルシアンの腕が空中で止まった。
「そうだった。怪我人だよな。可愛い妹に痛みを与えるところだったよ。
でも、可愛い顔に傷がつかなくてよかった。
残る傷が見えるところについていたら見るたびに泣いてしまいそうだ。」
このルシアンという兄は、とても優しい兄みたい。
髪色も同じだし、目の色も同じだったりして。
あとで鏡を見て確かめよう。
「大丈夫です。捻挫以外は打撲なので、10日もすれば治るそうです。
こちらの方たちが、王太子殿下とアデル様ですか?」
「そうだよ。一応、まだ婚約者のダリウス殿下と幼馴染のアデルだ。」
その『一応、まだ』というところを強調するのね。
ということは、お兄様は王太子殿下との結婚に反対してそうね。
アデル様が私の近くにかがんで言った。
「アンジェ、意識が戻って良かった。
まだ調査中だけど、僕が原因かもしれない。ごめん。
こうなった理由が全部わかったら、ちゃんと説明するから。
記憶が戻ってなかったとしても知りたいだろう?」
「はい。アデル様、よろしくお願いします。」
「アンジェ、アデルだ。気楽に話して。」
「わかったわ。アデル。」
記憶がなくてもわかる。アデルはアンジェリーナのことが好きだってことが。
とても心配そうに、でも愛しそうに見つめてくれるから。
王太子殿下にはそれがない。
「いや、そもそもの原因は私にある。すまない。アンジェリーナ嬢。
婚約は必ず白紙撤回するから。君たちを振り回してしまってすまなかった。」
いや、王太子殿下。さっぱり私には何のことかわからないから。
3人が部屋から出て行って、私はようやくララに手鏡を持ってきてもらった。
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