2 / 13
2.
しおりを挟む私以上に戸惑っているのではないかという両親は、ひとまず部屋に戻ることになった。
私のお腹が鳴ってしまったから。
お父様が侯爵様と呼ばれていたから、私は侯爵令嬢ということになる。
それなのにお腹が鳴るなんて……令嬢として恥ずかしい。身内しかいなくてよかったわ。
そんなどうでもよさそうなマナーは覚えているのにね。
でも、丸一日眠っていたみたいだからお腹が空くのは当然よね?
濡れタオルで顔や体を綺麗に拭いてもらい、あまり肩を動かさずに着れる服を着せてもらった。
そして、片手で何とか食事をしながら、自分のことについてララに教えてもらった。
ここは王都にあるディブル侯爵家の屋敷。
家族は両親と兄が一人。ルシアンというのは兄の名前だった。
学園に通う18歳で、あと半年ほどで卒業。
婚約者は、ダリウス王太子殿下。殿下というのは婚約者のことだった。
っていうか私、王太子殿下の婚約者なの?
名前を聞いても、婚約者だって言われても、全く思い出せないわ。
結婚式は一年後の予定だったけれど、少し前に状況が変わってしまってどうなるかはわからない。
という、なぜか微妙な言い方をされてしまった。
「私って、そのダリウス殿下と仲が良かったの?」
「……申し訳ございません。
王太子殿下とのことはどこまで私から話していいのか判断がつきません。」
すごく困ったように言われてしまった。
つまり、婚約者なのにあまり良い関係じゃなかったのかもしれない。
どちらかに問題があったのかもね。
ララの様子じゃ、私はダリウス殿下のことを好きではなかったのかしら。
「そうなの。そう言えば、私は家の階段から落ちたの?」
「いえ、学園の階段です。
私は意識のないアンジェリーナ様のそばに付いておりましたので、詳しい情報はわかりません。
ですが、落ちたというより、突き落とされたと耳にしました。」
「……ねぇ、ララ。私って恨みを買うような人物だったということかしら。」
「違います!アンジェリーナ様はそのような方ではございません。
私たち使用人も、お仕えできてうれしく思っております。」
「そう。それなら良かったわ。
じゃあ、もしかしたら王太子殿下の関係なのかもね。」
突き落としたのが女性だったらそうかもしれない。
でも男性だったのなら?よくわからないわね。
「王太子殿下との関わりはわかりませんが、スザンヌ様が聴取を受けていると聞きました。」
「スザンヌ様?突き落としたのは女性なのね。私の友人かしら。」
「友人といえるほどのお付き合いはございませんでした。
ただ、アデル様と婚約するのではないかと噂されていた令嬢です。」
アデル。さっき、お母様が言った名前ね。
「アデル様というのは、私とどういった関係なのかしら。」
「アデル様は、アンジェリーナ様の幼馴染です。
王太子殿下との婚約がなければ、アデル様と婚約されていました。」
ちょっと待って。情報過多だわ。
私は婚約を考えていたほどアデル様との距離が近かった。幼馴染って言ってたわね。
だけど、王太子殿下と婚約することになった。
それなのに、ひょっとして私は今でもアデル様と仲良くしていたのかしら。
だから、王太子殿下との仲も良くなかった?
婚約するかもしれないスザンヌ様は、アデル様のそばにいる私が邪魔だったとか?
「王太子殿下は何歳?」
「殿下は2歳上の20歳です。アデル様とスザンヌ様はアンジェリーナ様と同い年です。」
「殿下との婚約はいつ?」
「3年ほど前です。前の婚約者の公爵令嬢と婚約解消をされてアンジェリーナ様が選ばれました。」
「……私が選ばれたのはなぜ?」
「国王陛下が選ばれたと聞いております。」
「……殿下ではないのね。」
「はい。殿下には恋人がおられますので。あっ!言ってしまったわ。
すいません。私が言ってはいけない情報かもしれません。」
さっき、どこまで話していいか判断つかないって言ってたものね。
そっか。殿下には恋人がいるのね。
それなのに私が婚約者。
あぁ、情報過多でわけがわからないわ。
569
お気に入りに追加
1,805
あなたにおすすめの小説
婚約者を追いかけるのはやめました
カレイ
恋愛
公爵令嬢クレアは婚約者に振り向いて欲しかった。だから頑張って可愛くなれるように努力した。
しかし、きつい縦巻きロール、ゴリゴリに巻いた髪、匂いの強い香水、婚約者に愛されたいがためにやったことは、全て侍女たちが嘘をついてクロアにやらせていることだった。
でも前世の記憶を取り戻した今は違う。髪もメイクもそのままで十分。今さら手のひら返しをしてきた婚約者にももう興味ありません。
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
【完結】「お姉様は出かけています。」そう言っていたら、お姉様の婚約者と結婚する事になりました。
まりぃべる
恋愛
「お姉様は…出かけています。」
お姉様の婚約者は、お姉様に会いに屋敷へ来て下さるのですけれど、お姉様は不在なのです。
ある時、お姉様が帰ってきたと思ったら…!?
☆★
全8話です。もう完成していますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。
どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。
だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。
短編。全6話。
※女性たちの心情描写はありません。
彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう?
と、考えていただくようなお話になっております。
※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。
(投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております)
※1/14 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
完結 私の人生に貴方は要らなくなった
音爽(ネソウ)
恋愛
同棲して3年が過ぎた。
女は将来に悩む、だが男は答えを出さないまま……
身を固める話になると毎回と聞こえない振りをする、そして傷つく彼女を見て男は満足そうに笑うのだ。
学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる