愛人契約は終わったはずじゃ?

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
14 / 19

14.

しおりを挟む
 
 
13歳で学園に入学した時、僕にはまだ婚約者はいなかった。

王弟の息子で公爵令息。
希望すればどんな縁談でも望みは叶っただろう。

だが、従兄弟である王太子に王子が産まれるまでは、婚約者を決めない方がいいと両親は言った。

その後、王太子に息子が産まれたことでシグルドは少し気楽な立場になった。

しかし、15歳の時、隣国の第4王女メラニーとの婚約が決まった。

隣国は昨年、この国と隣国を挟んだ反対側にある国を襲った。
自然豊かで美しい風景が多い国だったというが、突然攻め入られて大勢の騎士や平民が亡くなった。
属国、というよりも隣国の領地の一つのように吸収されたらしい。

どういう経緯で攻め入られることになったのかは、わからない。
だが、好戦的な国王、そして王太子も同様だという情報があった。

第2王女は違う国の王太子妃に、第3王女はまた違う国の王子の婚約者、そして第4王女がシグルドの婚約者。
第5王女はまだ子供らしい。

従うしかない。

初めて会った第4王女メラニーは人形のように表情のない王女だった。
12歳とは思えなかった。

彼女を妻にするなど、想像もつかなかった。



ある日、学園で表情の抜け落ちた令嬢を見かけた。
それがユリアだった。

同じ学年の顔と名前は全員覚えている。
ユリアとは同じクラスにはなったことはないが、笑顔が可愛い令嬢だと思っていた。

その彼女が笑っていなかった。

僕が婚約の手続きで隣国に行っているのと同時期にユリアの母親が亡くなったらしい。
悲しんでいるのだとわかった。

しかし、その後1年の間に、彼女の実家の伯爵領は詐欺まがいに奪い取られてしまった。
領地を買った新子爵が詐欺に関わっているのは明らかだったが、騙されたのはユリアの父親だ。
どうやら妻の死がショックで伯爵が正気じゃない時に身近な側近が裏切ったようだった。

その後、ユリアの父と弟は王都の一部屋で暮らし始め、父親も仕事を始めた。 
そしてユリアの父が亡くなるまでは、弟の学費のために節約しながら金を貯めて暮らしていた。

ユリアの母親が亡くなってからの、その2年間ずっと、シグルドはユリアの表情を観察していたのだ。

『怒ってる』
『喜んでる』
『楽しそう』
『美味しかったんだ』
『泣きそう?』

弟が入学して、あるはずのお金を父親の知り合いに持ち逃げされ、東屋の前のベンチで愛人を探すような独り言をユリアが言わなければ、いつも通りに独り言を東屋の中で楽しんで聞くだけだった。

声をかけるつもりなんてなかったのに、放っておけなくなった。

話を聞いた後、学費と寮費を払ってやると言っても喜ばない。
ならば、立て替えるので少しずつ返してくれればいいと言っても悩んでる。

なぜか婚約者は誰か、とか、好意があるか、とか聞かれたと思ったら、卒業まで僕の愛人にしてほしいと言い出す。

そんな誘惑に勝てるはずがない。

ずっと見続けてきたのは、ユリアに好意があるからなんだから。

ユリアの体は僕のもの?

純潔も奪ってほしい?

他の誰かに奪われるくらいなら、僕のものにする。 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

処理中です...