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しおりを挟む13歳で学園に入学した時、僕にはまだ婚約者はいなかった。
王弟の息子で公爵令息。
希望すればどんな縁談でも望みは叶っただろう。
だが、従兄弟である王太子に王子が産まれるまでは、婚約者を決めない方がいいと両親は言った。
その後、王太子に息子が産まれたことでシグルドは少し気楽な立場になった。
しかし、15歳の時、隣国の第4王女メラニーとの婚約が決まった。
隣国は昨年、この国と隣国を挟んだ反対側にある国を襲った。
自然豊かで美しい風景が多い国だったというが、突然攻め入られて大勢の騎士や平民が亡くなった。
属国、というよりも隣国の領地の一つのように吸収されたらしい。
どういう経緯で攻め入られることになったのかは、わからない。
だが、好戦的な国王、そして王太子も同様だという情報があった。
第2王女は違う国の王太子妃に、第3王女はまた違う国の王子の婚約者、そして第4王女がシグルドの婚約者。
第5王女はまだ子供らしい。
従うしかない。
初めて会った第4王女メラニーは人形のように表情のない王女だった。
12歳とは思えなかった。
彼女を妻にするなど、想像もつかなかった。
ある日、学園で表情の抜け落ちた令嬢を見かけた。
それがユリアだった。
同じ学年の顔と名前は全員覚えている。
ユリアとは同じクラスにはなったことはないが、笑顔が可愛い令嬢だと思っていた。
その彼女が笑っていなかった。
僕が婚約の手続きで隣国に行っているのと同時期にユリアの母親が亡くなったらしい。
悲しんでいるのだとわかった。
しかし、その後1年の間に、彼女の実家の伯爵領は詐欺まがいに奪い取られてしまった。
領地を買った新子爵が詐欺に関わっているのは明らかだったが、騙されたのはユリアの父親だ。
どうやら妻の死がショックで伯爵が正気じゃない時に身近な側近が裏切ったようだった。
その後、ユリアの父と弟は王都の一部屋で暮らし始め、父親も仕事を始めた。
そしてユリアの父が亡くなるまでは、弟の学費のために節約しながら金を貯めて暮らしていた。
ユリアの母親が亡くなってからの、その2年間ずっと、シグルドはユリアの表情を観察していたのだ。
『怒ってる』
『喜んでる』
『楽しそう』
『美味しかったんだ』
『泣きそう?』
弟が入学して、あるはずのお金を父親の知り合いに持ち逃げされ、東屋の前のベンチで愛人を探すような独り言をユリアが言わなければ、いつも通りに独り言を東屋の中で楽しんで聞くだけだった。
声をかけるつもりなんてなかったのに、放っておけなくなった。
話を聞いた後、学費と寮費を払ってやると言っても喜ばない。
ならば、立て替えるので少しずつ返してくれればいいと言っても悩んでる。
なぜか婚約者は誰か、とか、好意があるか、とか聞かれたと思ったら、卒業まで僕の愛人にしてほしいと言い出す。
そんな誘惑に勝てるはずがない。
ずっと見続けてきたのは、ユリアに好意があるからなんだから。
ユリアの体は僕のもの?
純潔も奪ってほしい?
他の誰かに奪われるくらいなら、僕のものにする。
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