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しおりを挟むシグルドの愛人になって少しした頃、弟のアールが教室まで来て私を呼び出した。
何かあったのかと心配する私以外のクラスメイトは、まだ14歳のアールを微笑ましく見ていた。
14歳と言っても、ユリアよりも身長は高い。
だけど、ユリアの似て顔が可愛らしいので18歳になろうという令息に比べれば線が細い。
領地があれば、嫁候補は多かっただろうなぁと思う。
「どうしたの?」
「気づかなかったんだけど、お金が増えてるんだ。どうして?」
あぁ、そう言えばシグルドがお小遣いとか言ってたっけ。いくらか知らないけど。
「えーっと、それはね、昔お父様がお金を貸した人がいたらしくてね?
亡くなったことを知ってお金を返してくれたの。
だから、学費も寮費も全部払い終えてるし、残りはあなたのお小遣い。
5年分だから大事に使ってね。」
「5年分って……こんなに多すぎるよ。姉上はちゃんと自分用に置いてる?
500万もあれば数年暮らせるよ?私服と勉強に必要なものだけでこんなに使わないし。」
500万???500万!!!何その金額。
あ、そっか。公爵家と伯爵家ではお小遣いの金額が違うんだ。
シグルドは金銭感覚がおかしいんだわ。
「だけど、来年には私は働くでしょ?
あなたが卒業して夜会に出る必要があった時の衣装代とかにすればいいのよ。
アールは伯爵になるんだから、年に一度は王家の夜会に出ることになるでしょ。
働き始めたばかりのお給金で買えないじゃない。
それに、卒業したら伯爵として登録するのにもお金がいるし、ね。」
「あー。まぁそっか。
だけど姉上は夜会に出たりしないの?ドレスとか必要じゃない?」
「私は働くから。夜会にも興味はないわ。
声をかけられても持参金の用意ができないから結婚対象に見てもらえないのよ。
愛人狙いなら出会いもあるだろうけど、ソノ気はないわ。」
シグルドとの愛人契約が終わっても、誰かの愛人になるつもりはない。
それに、夜会に出たらシグルドと王女様に出会っちゃうかもしれないしね。
「そっか。わかった。大事に使うよ。
もうすぐ王城で侍女の試験があるんだよね。頑張って。」
「うん。ありがとう。頑張る。
目指せ高収入!好待遇!寮と休暇制度が魅力的だから絶対に受かってみせるわ。」
完全シフト制の王城勤務は他家の侍女になるよりも好待遇。
他家の侍女は主によっては振り回されるから。
王城で働く人には寮も近くにあるので、通勤にも便利。
おばさんになっても居座ってやるんだから。
その後行われた年に一度の王城侍女試験にユリアは見事合格し、卒業後の生活が決定したのだった。
そして、ユリアはその頃になってようやく気づいた。
試験を受けるために置いておいた受験費用。
その手続きをしようとした時に、自分のお金も増えていたことに。
弟アールと同時期に、ユリアにも500万振り込まれていたことをようやく知った。
ユリアとアールで1000万。
それに学費と寮費も払ってくれた。
一体、シグルドは1年にも満たない愛人にどれだけお金を使ったのだろうか。
返すと言っても受け取らないだろう。
でも、どうしたらいいのかわからずに聞いた。
「今頃気づいたのか?問題ないよ。正当な対価だ。
カツカツな生活よりも2人共が気楽に過ごしてくれる方が嬉しい。」
「ありがとう。
弟には、父が昔お金を貸した人から返ってきたって言ったの。
いつか弟にも、あなたの好意を伝えられたらいいのにな。」
「いいんだよ。俺の自己満足なんだから。
ユリアはもう少し我が儘でもいいんだ。
それを叶えるのが俺の役割みたいなもんなんだからな。」
なんと太っ腹な愛人なんだろう。
あと数か月の関係だけど、私の体でシグルドが少しでも癒されて満足してくれたら嬉しいな。
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