愛人契約は終わったはずじゃ?

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
7 / 19

7.

しおりを挟む
 
 
シグルドの愛人になって少しした頃、弟のアールが教室まで来て私を呼び出した。

何かあったのかと心配する私以外のクラスメイトは、まだ14歳のアールを微笑ましく見ていた。
14歳と言っても、ユリアよりも身長は高い。
だけど、ユリアの似て顔が可愛らしいので18歳になろうという令息に比べれば線が細い。
領地があれば、嫁候補は多かっただろうなぁと思う。


「どうしたの?」

「気づかなかったんだけど、お金が増えてるんだ。どうして?」


あぁ、そう言えばシグルドがお小遣いとか言ってたっけ。いくらか知らないけど。


「えーっと、それはね、昔お父様がお金を貸した人がいたらしくてね?
 亡くなったことを知ってお金を返してくれたの。
 だから、学費も寮費も全部払い終えてるし、残りはあなたのお小遣い。
 5年分だから大事に使ってね。」

「5年分って……こんなに多すぎるよ。姉上はちゃんと自分用に置いてる?
 500万もあれば数年暮らせるよ?私服と勉強に必要なものだけでこんなに使わないし。」


500万???500万!!!何その金額。
あ、そっか。公爵家と伯爵家ではお小遣いの金額が違うんだ。
シグルドは金銭感覚がおかしいんだわ。


「だけど、来年には私は働くでしょ?
 あなたが卒業して夜会に出る必要があった時の衣装代とかにすればいいのよ。
 アールは伯爵になるんだから、年に一度は王家の夜会に出ることになるでしょ。
 働き始めたばかりのお給金で買えないじゃない。
 それに、卒業したら伯爵として登録するのにもお金がいるし、ね。」

「あー。まぁそっか。
 だけど姉上は夜会に出たりしないの?ドレスとか必要じゃない?」

「私は働くから。夜会にも興味はないわ。
 声をかけられても持参金の用意ができないから結婚対象に見てもらえないのよ。
 愛人狙いなら出会いもあるだろうけど、ソノ気はないわ。」


シグルドとの愛人契約が終わっても、誰かの愛人になるつもりはない。
それに、夜会に出たらシグルドと王女様に出会っちゃうかもしれないしね。

 
「そっか。わかった。大事に使うよ。
 もうすぐ王城で侍女の試験があるんだよね。頑張って。」

「うん。ありがとう。頑張る。
 目指せ高収入!好待遇!寮と休暇制度が魅力的だから絶対に受かってみせるわ。」


完全シフト制の王城勤務は他家の侍女になるよりも好待遇。
他家の侍女は主によっては振り回されるから。
王城で働く人には寮も近くにあるので、通勤にも便利。
おばさんになっても居座ってやるんだから。
 

その後行われた年に一度の王城侍女試験にユリアは見事合格し、卒業後の生活が決定したのだった。


そして、ユリアはその頃になってようやく気づいた。
試験を受けるために置いておいた受験費用。
その手続きをしようとした時に、自分のお金も増えていたことに。
弟アールと同時期に、ユリアにも500万振り込まれていたことをようやく知った。 

ユリアとアールで1000万。
それに学費と寮費も払ってくれた。

一体、シグルドは1年にも満たない愛人にどれだけお金を使ったのだろうか。

返すと言っても受け取らないだろう。

でも、どうしたらいいのかわからずに聞いた。


「今頃気づいたのか?問題ないよ。正当な対価だ。
 カツカツな生活よりも2人共が気楽に過ごしてくれる方が嬉しい。」

「ありがとう。
 弟には、父が昔お金を貸した人から返ってきたって言ったの。
 いつか弟にも、あなたの好意を伝えられたらいいのにな。」

「いいんだよ。俺の自己満足なんだから。
 ユリアはもう少し我が儘でもいいんだ。
 それを叶えるのが俺の役割みたいなもんなんだからな。」

 
なんと太っ腹な愛人なんだろう。

あと数か月の関係だけど、私の体でシグルドが少しでも癒されて満足してくれたら嬉しいな。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

処理中です...