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しおりを挟む貴族令嬢として結婚することは領地を失ったときに既に諦めている。
結婚せずに生きていくには、王城で働くか、貴族家で働くか、家庭教師になるか。
安定しているのは王城。
ユリアが目指すのは、贅沢はしなくても苦労しない人生。
王城で侍女として働き、アールが学園を卒業するまでは学費のために働き、その後は自分のささやかな楽しみを見つけて一人で生きる。
だから、自分の体がお金になるのであれば売ってもよかった。
「どうやって買ってもらったらいいのかしら。
娼婦になるつもりはないけれど、純潔って高く売れるの?
それとも慣れてる方が買ってもらえるのかしら?
えーっと、3年分の学費と5年分の寮費でいくらくらいかしら。1000万くらい?
1回でそんなに払ってくれる人なんていないわよね。じゃあ何年も愛人ってこと?
卒業するまでの間で納得してくれる人っていないかな。
お金を貰えるならどんな人でもいいけど、愛人関係を秘密にしてくれる人がいいよね。
同級生や知り合いの父親は嫌かなぁ。奥様との仲が冷めている人。
え?そんなのどうやって探したらいいの?わかんない。
1000万じゃなくてもいいからとりあえず3か月分の寮費をくれる人だったらいる?」
その時、『クックっクック』と笑い声が聞こえた。
ユリアがブツブツ独り言を言っていたのは、学園の庭園にある東屋の前にあるベンチ。
東屋の中には誰もいないと思っていた。
だけど、後ろにある東屋の方から笑い声が聞こえてきたのだ。
つまり、中のベンチで寝そべっている人がいたということだ。
ユリアは顔を見られる前に逃げ出そうとしたが、その前に声をかけられた。
「ユリア・コルソー伯爵令嬢、相談に乗るよ?」
既に誰だかバレていることと、相談に乗ると言われたことに驚いて東屋の方を見てしまった。
そこにいたのは、同級生のシグルド・バンドール公爵令息だった。
「言っておくけれど、先にここにいたのは俺だからね。
誰か来たのはわかったけれど、去るまで動くつもりはなかった。
だけど、君が独り言を言い出すし、その内容があまりにも面白くて………
あぁ、ごめん。君には深刻な話なんだよな。」
面白いと言われて思わず睨んでしまったが、相談に乗るって言ってくれたし彼の方が知り合いが多そうなので経緯を話した。
「つまり、爵位を売れば学費と寮費は何とかなるけれど平民になって今後の生活が厳しい。
まあ、それはそうだよな。貴族として暮らしてきて今後何十年と平民になるのは辛い。
しかも、そういう境遇の元令嬢は大体が攫われて売られるからな。」
………なんてことを教えてくれるのだろうか、この男は。
「で、残りの売れそうなものが君の体、か。」
シグルドは顔や体をジロジロと見てきた。
「……売れない?」
胸はある方だと思うんだけど。顔も悪くないと思う。モテないわけじゃないし。
ただ、領地がなくなって持参金もないから令嬢としての価値がなくて婚約の申し込みはない。
「いや、十分に売れると思う。
だけど、弟は君が自分の体を売った金で学園に通いたいか?」
「言うつもりはないわ。
あのね、どのみち結婚できないんだし、付き合う人ができて純潔を捧げてもタダなの。
私は行儀見習いの令嬢たちと違って、一生働くのよ?」
「だが、働き先で結婚したい人が現れたら?」
「どうせ、爵位を継ぐ令息ではないわ。それなら純潔にこだわる必要もないでしょ?」
爵位を継ぐ令息には正式に婚約を結んだ令嬢がいることがほとんど。
文官や騎士として働いている令息は、次男三男が多い。
同じく侍女として働いている令嬢も次女三女が多い。
そうなると、婚前交渉も割とあるし別れることもある。
なので、結婚に純潔必須というわけではない。
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