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しおりを挟む今日が最後。
ユリアはシグルドに体を揺さぶられながら、『もし妊娠すれば、彼は産むことを許してくれるかな?』なんて、あり得ないことを考えていた。
実際に妊娠すれば困るのはユリア本人。
それに、シグルドに飲まされている避妊薬は効果の高いもの。
万が一のことを考えて、2人共が避妊薬を飲んでいるので妊娠することはあり得ない。
わかっているけれど、彼がまるで孕んでほしいかのように最奥で何度も精を放つから勘違いしたくなる。
キスも愛撫も、愛されているような気にさせるから勘違いしたくなる。
でも今日で最後。
明日が卒業式だから。
卒業までの愛人契約。
私は、お金のためにシグルドに体を売ったの。
ただ、それだけ。
始まりは、9か月ほど前だった。
弟の寮費がひと月分しか払われていないことを知った。
4歳下の弟アールは学園に入学したばかり。私は最上級生。5年制の学園。
その少し前に父が亡くなった。
学費は2年分だけ、父が先払いしていた。
弟は父と暮らす部屋から通うつもりだったので、寮の申し込みはしていなかった。
父が亡くなったため、部屋を解約してアールは学園の寮に入ることになった。
保護者が王都にいなければ寮に入らなければならないから。
いろいろと手続きを手伝ってくれた父の知り合いが……金と装飾品を持ち逃げした。
ひと月分だけ寮費を払っていたのは、発覚を遅らせるためだった。
私の学費と寮費は、お金に困っていなかった入学時に全額納めているので卒業まで通える。
だけど、このままじゃアールが通えなくなってしまうのだ。
両親が亡くなった私たちに残されたのは、伯爵位だけ。領地は借金と引き換えに売ったから。
爵位も売ることはできるけど、そうしたら平民になってしまう。
私たち姉弟は王城で働こうと思っているので、貴族か平民かで給金に随分と差が出る。
侍女かメイドか。文官か下働きか。
スタート地点が違ってくるので、将来のことを考えると爵位を売りたくはなかった。
父の失敗で領地領民を失ったけど、王都で就職した父の給金と来年から働くユリアの給金で弟のアールの残りの学費3年分はなんとかなるはずだった。
しかし、父が亡くなったために給金も無くなり、学費にと貯めていたお金も奪われた。
住まいを売ったお金も、アールに入るように手続きしていたはずが奪われた。
父が売ることを躊躇った母の装飾品、言わば形見まで父の友人は持ち逃げしたのだ。
手続きは無事に済んで、お金は全てアールの元にあると私は思っていた。
そのお金であと1年分の学費と2年分の寮費、つまり5年分のうち3年分を払い終えるつもりだった。
しかし、年払いにしたはずの今年の寮費すら、ひと月分しかなかったという。
そのひと月ももう既に過ぎており、アールは寮費を払っていないまま寮にいることになる。
ふた月滞納すると、寮から追い出される。……アールをユリアの女子寮の部屋に置くことはできない。
アールも、まさか自分の使えるお金がそこまでないとはまだ気づいていないはず。
いっそのこと、ユリアの残りの寮費と学費をアールに回せないかと聞いてみたが、無理だった。
なので自分が学園を辞めても何の得にもならない。
来年からは働くので、寮費は何とかなるかもしれない。
だけど、問題は今年の寮費。来月には追い出されてしまうのだから。
「諦めて爵位を売る?でも、残りの人生を考えると絶対に損よね。
奨学金は平民だけだって言われたし、やっぱり学園を辞めて私が働くしかない?
でも貴族のままでも学園中退で高収入なんてあるわけないし。
学生のまま働くとなると……やっぱり体を売るしかない?」
結婚するつもりはないので、純潔などいらないのだ。
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