上 下
13 / 17

13.

しおりを挟む
 
 
曾祖父のせいで罰を受け続けるハーブス家。
曾祖父の恋人だったレイチェルが1代目なのだから彼女は4代目になるのだ。

申し訳なく思う気持ちからか、彼女の現状を知るためによく話をするようになった。
だが、話せば話すほど、彼女と過ごすことが楽しく感じた。

彼女を好きになった。
私が婚約者オリヴィエと婚約解消すれば、罰としてハーブス家に行くことができるのではないか?

あまりにも愚かなその考えを心から打ち消すことができなかったことでオリヴィエに婚約を考え直すなどと口走ってしまった。

オリヴィエにも傷がつく。ローリエに気を取られて曾祖父の教訓を忘れてはいけなかった。 

最低なことをしてしまった。


私が王太子だと言うことを彼女が知った。
 
正直な気持ちを打ち明けた。

王族でも、王族だからこそ、できなくて、もどかしい、卑怯で臆病な醜態を晒した。 


それでも、彼女は私と会えてよかったと言ってくれた。


彼女とこの図書館以外で会うことなど許されることではない。
王太子である自分の行動は、思っている以上に人に見られていることを意識する必要があった。
オリヴィエという婚約者がいるのに違う令嬢といる姿を見られれば、ローリエはもちろん、オリヴィエも噂の的になってしまう。

それがわかっていても、彼女との最後の思い出がほしかった。

彼女に言った通り、私はオリヴィエに許可を得るために呼び出した。
 

「ハーブス男爵令嬢に会ったそうだね。」

「……ええ。ごめんなさい。でも、いろいろと私の勘違いだったのかしら?腑に落ちなくて。」

「私が婚約を考え直したいと言ってしまったからだな。すぐに取り消したが聞こえていなかったようだ。」

「取り消し?……そうだったのですね。失礼しました。」

「いや、無責任なことを口にした私が悪かった。申し訳ない。」

「いえ、では結婚は予定通りでよろしいのですよね?」

「ああ。だが、一つだけ頼みがある。ハーブス男爵令嬢と少しだけ外で会いたい。」

「学園の外、ということですね?……2人きりで?」

「もちろん、完全に2人きりではない。護衛も近くにいるし、何より屋外だから他人もいるだろう。」 

「……最後のお別れ、ということでよろしいの?」


やはり、オリヴィエは賢い女性だ。クレソンの気持ちを悟っているのだろう。
だが、最後と認めたくないのが正直な気持ちだった。 


「王太子として、次期国王になる者として、その責務をやり遂げる決意のために。」
 

クレソンの意味不明な決意のためのデートを、オリヴィエは苦笑しながら了承してくれた。




彼女と外で会う最初で最後の日。

時間は夕方から1時間ほどになるだろう。

前に話した、夕日と星空が綺麗な場所に彼女と行きたかった。 

どうしてそこを選んだかと言えば、意識すれば毎日のように見るものだからだ。

王都の観光名所を訪れたところで、彼女はほとんどを領地で過ごす。
レストランやカフェに行ったところで、同じ物を食べなければ思い出すこともないだろう。
いつもの図書館以外に、彼女の記憶に鮮明に残る何かを与えたいと思ったのだ。

 
私は、卑怯者だから。



 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな姿になってしまった僕は、愛する君と別れる事を決めたんだ

五珠 izumi
恋愛
僕たちは仲の良い婚約者だった。 他人の婚約破棄の話を聞いても自分達には無縁だと思っていた。 まさか自分の口からそれを言わなければならない日が来るとは思わずに… ※ 設定はゆるいです。

とある令嬢の婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある街で、王子と令嬢が出会いある約束を交わしました。 彼女と王子は仲睦まじく過ごしていましたが・・・ 学園に通う事になると、王子は彼女をほって他の女にかかりきりになってしまいました。 その女はなんと彼女の妹でした。 これはそんな彼女が婚約破棄から幸せになるお話です。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

婚約者の隣にいるのは初恋の人でした

四つ葉菫
恋愛
ジャスミン・ティルッコネンは第二王子である婚約者から婚約破棄を言い渡された。なんでも第二王子の想い人であるレヒーナ・エンゲルスをジャスミンが虐めたためらしい。そんな覚えは一切ないものの、元から持てぬ愛情と、婚約者の見限った冷たい眼差しに諦念して、婚約破棄の同意書にサインする。 その途端、王子の隣にいたはずのレヒーナ・エンゲルスが同意書を手にして高笑いを始めた。 楚々とした彼女の姿しか見てこなかったジャスミンと第二王子はぎょっとするが……。 前半のヒロイン視点はちょっと暗めですが、後半のヒーロー視点は明るめにしてあります。 ヒロインは十六歳。 ヒーローは十五歳設定。 ゆるーい設定です。細かいところはあまり突っ込まないでください。 

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

お金のために氷の貴公子と婚約したけど、彼の幼なじみがマウントとってきます

恋愛
キャロライナはウシュハル伯爵家の長女。 お人好しな両親は領地管理を任せていた家令にお金を持ち逃げされ、うまい投資話に乗って伯爵家は莫大な損失を出した。 お金に困っているときにその縁談は舞い込んできた。 ローザンナ侯爵家の長男と結婚すれば損失の補填をしてくれるの言うのだ。もちろん、一も二もなくその縁談に飛び付いた。 相手は夜会で見かけたこともある、女性のように線が細いけれど、年頃の貴族令息の中では断トツで見目麗しいアルフォンソ様。 けれど、アルフォンソ様は社交界では氷の貴公子と呼ばれているぐらい無愛想で有名。 おまけに、私とアルフォンソ様の婚約が気に入らないのか、幼馴染のマウントトール伯爵令嬢が何だか上から目線で私に話し掛けてくる。 この婚約どうなる? ※ゆるゆる設定 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでご注意ください

裏切り者

詩織
恋愛
付き合って3年の目の彼に裏切り者扱い。全く理由がわからない。 それでも話はどんどんと進み、私はここから逃げるしかなかった。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

処理中です...