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曾祖父の日記は、結婚後の絶望の日々が書き綴られていた。

それと同時に、レイチェルの近況も調べさせていたらしく、自分の子供を産んだことを知っていた。
駆け落ちを決めたときに関係を持ち、その時にできた子だった。

父である国王も知っていたが、孫と認めればその子が害されることを恐れ認知はできなかったのだ。

レイチェルは『ワケアリ』と結婚させられたが、その時すでに妊娠していたために夫の子供は必要なかった。お互い、『ワケアリ』なのだから子供の父親の詮索はないだろう。
だが、レイチェルは夫から暴力を受けていたと聞いた時の日記には涙の跡があった。 

どうしてレイチェルとハーブス家だけが罰を受けなければならないのか。
自分がレイチェルを望んでしまったことで、彼女は跡継ぎにも関わらず徐々に受け入れてくれたのだ。
咎を受けるのは自分であるはずだ。

曾祖父の日記からはそんな悲痛な叫びが何度も聞こえた。

その後、王太子から国王に即位するので日記を書くのは最後だと綴っていた。

結婚後、この部屋は次の独身の王太子が決まるまで空き部屋だが、日記を書くために息抜き用として使用し続けていたらしい。夫婦の部屋は繋がっているため、王女に日記が見つかることを恐れたためだろう。

最後に、この日記を見つけた王族に向けて書いてあった。

『これを読んだ者が何を思うかは自由だ。だが後世の王太子の教訓するため残し続けてほしい』
 
……父も祖父も読んだのだろうか。あるいは気づかなかったのだろうか。確かめることはしない。彼らは王女に指示されて『ワケアリ』をハーブス家に送り込んだ張本人なのだから。




学園の図書館の一角、そこは2年過ごすうちに昼休憩は自分と友人たちの空間となっていた。

それが破られたのは新たな新入生がいたからだ。

いつもなら、王太子であるクレソンに話しかけた時点でやんわりと退場になる。
図書館なのだ。本を読んだり勉強するところであって、私語をする気はないのだと断るから。

だが、我々よりも先に座っていたその令嬢は、読書に集中しているのかこちらに見向きもしなかった。
ほとんど彼女が先に来るが、たまに我々が先にいても、会釈をして本を読み始めるだけ。

別に隣に座るわけじゃない。別の机にいるのだし、追い出すことはできなかった。

ここに来る通路の手前で、友人の一人が奥に行かさないように誘導してくれている。
だが、彼女だけは今のところ通して問題ないと告げていた。




彼女が学年に数人しかやらない課題に熱心に取り組んでいるのを見て、思わず声をかけて役立つ本を渡した。

『先輩でしょうか?』

そう聞かれたことで、彼女は王太子の顔を知らないのだとわかった。
地方の下位貴族なのだろうと思った。

気が楽になった。

友人たちに、クレソンではなくミドルネームの『ジェイ』で呼ぶように頼んだ。 

こちらから声をかけないと話しかけることがない彼女のことは、通常では知り合うことのできない友人のように感じていた。


気持ちが変わったのは、彼女がハーブス男爵令嬢だと知ったからだ。

わずか半時間程度とはいえ王太子に近づく者なのだ。友人が調べてきた。
 




 
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