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王太子であるクレソンが自身の部屋で古い日記を見つけたのは偶然だった。

柱にある飾りの中に隠された記号。思いつく暗号を順に試せば隠し棚は開いた。

いつの時代のものだろうか。
少し楽しみにも申し訳なくも思いながら日記を開いたのは15歳のときだった。 


日記は13歳で隣国王女の婚約者に決まった頃から書き始めていた。
王女を妻にしたのは直近では曾祖父だ。更に前の時代の可能性もあったが、日記の状態からいって曾祖父であっているのではないかと思いながら読み進めた。

王女に一目惚れされたこと。彼女にいい印象を抱かなかったこと。
だが、国王陛下である父が本人の意思を確認することなく隣国王に媚びるように婚約を受けたこと。

毎月、王女が何かしらの贈り物を望み、好みの物でなければ手紙で批判してくることや手紙の返事が遅い、愛の言葉がないと責める手紙が届くことにウンザリしていることなどが書いてあった。

……曾祖母はとんでもない女性だったのだなと曾祖父を気の毒に思った。

クレソンの婚約者であるオリヴィエは真面目で堅苦しいが、理不尽なことは言わない。
気の強さに多少の苦手意識はあるが、曾祖母と比べたらオリヴィエは素晴らしい令嬢に思えた。


やがて、日記には一人の女性の名が書かれ始めた。
いや、初めはごまかすような表現で書かれていたが、読み進めると名前がわかった。

レイチェル・ハーブス伯爵令嬢。伯爵家では裕福な貴族家だったようだ。
 
……ハーブス家?そんな伯爵家はあったか?今はもうない?疑問に思った。


曾祖父はそのレイチェルという令嬢のことをとても好きになったようだった。
伯爵家から王家に嫁ぐことは多くはない。だが、ないこともなかった。
しかし、曾祖父の婚約者は隣国の王女だ。婚約解消は難しい。
正妃は無理だ。だから、側妃にと考えているのかと思って読み進めた。

だが、曾祖父は国王陛下に王女との婚約を解消できないか話した。
もちろん、それは受け入れられなかった。
王女と結婚して子供ができるまでは愛人に、その後は側妃にする計画になった。

しかし、王女の手の者が使用人にいたのだろう、レイチェルのことが王女にバレた。

曾祖父は王女のただならぬ気配を感じ、レイチェルと駆け落ちまで考えていた。

実行に移す前に、王女がやってきた。

『裏切りは許さない。結婚は絶対。伯爵家の女には罰を与える』 

ハーブス家の爵位は伯爵から男爵に。
レイチェルを1代目として5代目まで跡継ぎの配偶者は王家が決める。
何があろうと5代目までは男爵位のまま。
王都内での社交は禁止。

しかも配偶者の条件もひどかった。  

貴族として失態を犯した『ワケアリ』な者。
子供は必ず1人もうけること。
結婚10年経てば離婚を認める。

通常であれば罰を与えるとしても、王女の悋気に触れたとしてレイチェルが修道院に行けば落ち着く程度のことだった。

だが、曾祖父の父である国王陛下は、言われるがままこの条件を受け入れてしまったそうだ。

……王女は嫁いでくるのだろう?この国には側妃制度はある。隣国にもあるし、他国の王女が嫁げば自国の令嬢が側妃になることもよくあるのだ。
なのにどうして、属国でもないのにこの非常識な取り決めを受け入れてしまったのか。


しかも、王女は子供を一人しか産まなかったのにその後も側妃を許さなかったらしい。
 
レイチェルを許さなかったのだから、当然そうなるだろう。




  



 
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