5 / 17
5.
しおりを挟むローリエは恋をした。
相手はもちろん、図書館で会う彼。
穏やかで優しい彼を好きになりたくなかった。
そう思っている時点で好きになっているのだと諦めた。
初恋だった。誰かを好きになっても意味がないと思っていたから。
でも、結ばれる恋だけが恋ではない。
結ばれないとわかっていて恋をすることも、いい思い出になるのではないかと思った。
あと数か月で彼は卒業するのだから。
2年後にはローリエは『ワケアリ』と結婚することになるのだから。
彼との未来はあるはずがない。
だからこそ今、彼と会って話ができることを楽しもう。
辛い時に幸せな記憶を思い出せば頑張れそうだから。
だけど、時々想像してしまう。
彼も私のことを意識しているように感じるから。
見つめ合うと、ただの知り合い・友人以上の熱を感じるようになったから。
図書室にいる間の彼の時間が、いつの間にか全部私と過ごす時間になっているから。
お互いに言葉にできなくても惹かれ合っているのを感じる。
それでも名乗り合わないのは、この恋に突き進むことができない事情がお互いにあるからとわかる。
おそらく彼には婚約者が、そしてわたしは婚約者を自分で選べない事情が。
でももし、彼が私のために結婚直前に婚約解消をしてくれたら?
それが『ワケアリ』だと王家に認められたとしたら?
彼が私の夫としてハーブス男爵家に来てくれるかもしれない。
……馬鹿ね。そんなことあるわけがない。婚約解消を言い出した原因が私だとわかれば絶対に。
彼と結婚する女性はおそらく高位貴族だと思う。
家族や婚約者、領民や事業などいろいろ背負っているはず。
彼がその全部を捨てて私を選ぶとは思えない。
それでも、幸せな想像をするのは私の自由。
だって、彼は何かに縛られていそうだから。
生命力に溢れているとは言い難い。いろんなことを諦めてそうに感じる。
私と、少し似ている。
でも、彼が私を選んでくれても、私は彼を選べない。
『ワケアリ』と結婚することが4代目である私の義務だから。
くだらない、義務。罰。
彼が一緒に逃げようと言ってくれたら、私はついていくだろうか。
納得のいかない罰を受け続けているハーブス家を捨てて。
父や祖父たちが長年この仕打ちに耐えてきたというのに4代目の私がそれを放棄できる?
ローリエの代わりに継いでくれる人など誰もいない。
何代も続けて子供を1人しか産んでいないことで、ハーブス家の血縁と言える親戚はいない。
かつて伯爵家だった頃から我が領地で作られている薬草は他国との取引も多いので、領地を他貴族に任せて平民になることも検討したことがあるらしい。
だが、5代目まで男爵家でいなければならないという罰則に縛られ、許可されなかったという。
子作りをしないのであれば、『ワケアリ』を何人も送り込むことになるとも言われたとか。
私はレイチェル以来の女の跡継ぎになる。私が妊娠しなければ、5代目は産まれない。
それも許されないのだろうか。
もう、終わらせてしまいたいと思うのは、彼を好きになってしまった影響。
王都に来る前のローリエにとって『ワケアリ』夫と10年過ごすことは、決定した未来だった。
今は、こんなにもその未来から逃げたくなってしまった。
604
お気に入りに追加
812
あなたにおすすめの小説
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
クレアは婚約者が恋に落ちる瞬間を見た
ましろ
恋愛
──あ。
本当に恋とは一瞬で落ちるものなのですね。
その日、私は見てしまいました。
婚約者が私以外の女性に恋をする瞬間を見てしまったのです。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】ラーレの初恋
こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた!
死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし!
けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──?
転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる