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しおりを挟むローリエは恋をした。
相手はもちろん、図書館で会う彼。
穏やかで優しい彼を好きになりたくなかった。
そう思っている時点で好きになっているのだと諦めた。
初恋だった。誰かを好きになっても意味がないと思っていたから。
でも、結ばれる恋だけが恋ではない。
結ばれないとわかっていて恋をすることも、いい思い出になるのではないかと思った。
あと数か月で彼は卒業するのだから。
2年後にはローリエは『ワケアリ』と結婚することになるのだから。
彼との未来はあるはずがない。
だからこそ今、彼と会って話ができることを楽しもう。
辛い時に幸せな記憶を思い出せば頑張れそうだから。
だけど、時々想像してしまう。
彼も私のことを意識しているように感じるから。
見つめ合うと、ただの知り合い・友人以上の熱を感じるようになったから。
図書室にいる間の彼の時間が、いつの間にか全部私と過ごす時間になっているから。
お互いに言葉にできなくても惹かれ合っているのを感じる。
それでも名乗り合わないのは、この恋に突き進むことができない事情がお互いにあるからとわかる。
おそらく彼には婚約者が、そしてわたしは婚約者を自分で選べない事情が。
でももし、彼が私のために結婚直前に婚約解消をしてくれたら?
それが『ワケアリ』だと王家に認められたとしたら?
彼が私の夫としてハーブス男爵家に来てくれるかもしれない。
……馬鹿ね。そんなことあるわけがない。婚約解消を言い出した原因が私だとわかれば絶対に。
彼と結婚する女性はおそらく高位貴族だと思う。
家族や婚約者、領民や事業などいろいろ背負っているはず。
彼がその全部を捨てて私を選ぶとは思えない。
それでも、幸せな想像をするのは私の自由。
だって、彼は何かに縛られていそうだから。
生命力に溢れているとは言い難い。いろんなことを諦めてそうに感じる。
私と、少し似ている。
でも、彼が私を選んでくれても、私は彼を選べない。
『ワケアリ』と結婚することが4代目である私の義務だから。
くだらない、義務。罰。
彼が一緒に逃げようと言ってくれたら、私はついていくだろうか。
納得のいかない罰を受け続けているハーブス家を捨てて。
父や祖父たちが長年この仕打ちに耐えてきたというのに4代目の私がそれを放棄できる?
ローリエの代わりに継いでくれる人など誰もいない。
何代も続けて子供を1人しか産んでいないことで、ハーブス家の血縁と言える親戚はいない。
かつて伯爵家だった頃から我が領地で作られている薬草は他国との取引も多いので、領地を他貴族に任せて平民になることも検討したことがあるらしい。
だが、5代目まで男爵家でいなければならないという罰則に縛られ、許可されなかったという。
子作りをしないのであれば、『ワケアリ』を何人も送り込むことになるとも言われたとか。
私はレイチェル以来の女の跡継ぎになる。私が妊娠しなければ、5代目は産まれない。
それも許されないのだろうか。
もう、終わらせてしまいたいと思うのは、彼を好きになってしまった影響。
王都に来る前のローリエにとって『ワケアリ』夫と10年過ごすことは、決定した未来だった。
今は、こんなにもその未来から逃げたくなってしまった。
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