上 下
1 / 17

1.

しおりを挟む
 
 
ローリエ・ハーブスは今年も同じ日に同じ丘にやってきた。

ここに来るのは4回目。今日と昨年、一昨年、そして27年前。

待っていても彼は現れないということはわかっている。……彼は亡くなったのだから。 

それでもローリエは自分が元気でいるうちは、この日はここに来るだろう。

彼を偲んで、思い出に浸るために。




ローリエが彼と初めて会った、というか声をかけられたのは王都の学園に入学して3か月後のことだった。

ハーブス男爵領は王都から遠い。領地に近い学園もあったが、ローリエは王都を選んだ。
学園にある図書館の蔵書量が王立図書館と同様だと聞いたからである。
ちなみに王立図書館も王都にあるので、近い場所に同じ図書館がある意味が不明だと思っている。
 
そんな図書館で昼休みをローリエは過ごしていた。

最初は友人となった令嬢たちと一緒に過ごしていたけれど、彼女たちは図書館よりもおしゃべりの方が好きなのでいつしか昼食後は別行動となっていた。

ローリエは図書館の中で自分のお気に入りの場所を見つけて、そこで本を読んでいた。
近くに誰が来ようと、誰が通りかかろうと、本に熱中しているので周りは見ない。
ローリエに用があれば声をかけてくれるだろうと思っていた。

そして入学から3か月が過ぎた頃、試験の課題の一つにローリエは取り組んでいた。

 
「その時代、新たな時代の本で年号や政策に修正が入っているよ。」

「え……?」


さすがにローリエも書き出した手元に自分の指ではないものが入り込めば、自分にかけられた声だと気づいた。

指摘してきた男性と、その後ろに2人の男性がいた。


「これ、違うのですか?」

「ああ。こっちも読んでみて。それから纏めた方がいいと思う。」

「そうなのですね。ありがとうございます。」


彼はわざわざその本を取ってきてくれていた。
ということは、ローリエが何をしていたかがわかっていたのだろう。
確かに、何か年号の順序がおかしい気がしていたところだったのだ。


「課題の内容をご存知ということは、先輩でしょうか?」


この課題は毎年この時期に1年生に出される5つの中の1つらしい。どれを選ぶかは本人の自由。 
提出した課題は戻ってこない。後輩たちが丸写しするという短慮な行動に出るからだという。 
 
それでも、自力でやらない者もいるらしい。気づかれると採点は厳しくなる。


「……そうだね。君の2つ上になる。この課題を選ぶ者は少ない。君はどうしてこれを?」

「私が一番詳しく知らない時代ですので、いい機会だと思いまして。」

「そっか。頑張って。」

「ありがとうございます。」

 
一緒にいた2人と共にローリエのいる場所から少し離れたところに彼は座った。
それぞれ思い思いの本を読み始めていた。

ローリエが課題を進めやすいように助けてくれた優しい先輩。
 
それが第一印象だった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)

彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

【完結】好きな人に身代わりとして抱かれています

黄昏睡
恋愛
彼が、別の誰かを想いながら私を抱いていることには気づいていた。 けれど私は、それでも構わなかった…。

処理中です...