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しおりを挟むそして、14歳になった二人の学園の入学式の日になった。
マリエルにとって、夢の出来事の第二部が始まるような緊張感があった。
もちろん事前に入学者の中に出会うはずの令嬢、ハーティ男爵家の庶子アリス嬢の名前があることを確認していたが、当日に現れるまで不安だった。
自分の目で確認したいところであったが親とは別の時間のため、リリーベルを迎えに来てくれたアダム王太子の侍従に前もって見たことの報告をお願いしておいた。
そして、起きた出来事が…
馬車止めでアダム王太子とリリーベルが降り二人で歩き始めたところ、
「あっ!きゃあ!」…ドタッと音が聞こえた。
二人から3m離れた場所であったが、会話に夢中で聞こえなかったフリをしてそのまま歩き去った。
これは『マニュアル』でも挙げたよくある出会いの一つで、警戒していた。
周りには他にも人がいる。自分が助ける必要はない。
万が一、王太子に危害を加えようと企むものの仕業だとしたら大事である。
そのために後ろには侍従もいる。自分たちだけであっても、侍従が手を差し伸べればよいのだ。
もちろん、リリーベル以外の女性に極力触れる気も優しくする気もないアダムは動揺もなく無視。
結果、彼女に駆け寄った親切な男性はいた。…誰かは知らないが…
この一幕を聞いた国王夫妻、公爵夫妻は声をあげて喜んだ。これで最悪の事態はなくなった…
彼女の入学が確認出来たことで、二人が亡くなることはない。
学園では、一緒のクラスで仲睦まじい様子を周りに見せつけ、好ましい友人たちと常にいるために隙がない。
それでも、果敢な平民や下位貴族令嬢が話し掛けてきたが撃沈し、最低限にクラスメイトとして接した。
時々、『ペンがなくなったわ』とか『服が汚されたわ』とか『階段で背中を押したのは誰?』とか、誰に訴えているかわからない独り言を言う令嬢がいた。
あまりに演技っぽくて耳障りなので、風紀担当のクラスメイトが、
「あなたが言った出来事の日付と場所を書いています。
この学園では、数年前に改装があった時、階段や使用教室には監視記録映像の魔石が設置されています。
学生同士のトラブルに対応出来るようにね。
申請すれば、見ることが出来て犯人がわかりますよ?確認しますか?」
と聞けば、『私のために迷惑はかけられないわ』と断った。…独り言は言わなくなった。
入学して半年が経ったころ、ある令嬢が貴族令息に媚薬を飲ませた事件が起きた。
体に異変を感じた直後、3階の窓から飛び出し風の魔力を用いてなんとか着地した。
気付いた警備員に事情を話し、一人は令息を医務室へ運び、もう一人は教師を呼んで空き教室へ向かった。
逃げようと教室を出て来た令嬢を捕えたところ、カバンの中から何種類かの薬を見つけた。
薬の種類が判明するまで釈放も出来なくなり、担当部署へ移送された。
調査の結果、持っていた薬は…媚薬、睡眠薬、そして毒薬だと判明。
もちろん、学園は退学となり罪人となり、薬は父の男爵から渡されたもので販売ルートは壊滅された。
…そうハーティ男爵の庶子アリスだった。
これで、完全に夢の出来事から逃れられたのである。
後日、ルナリーゼとマリエルは国王陛下から事実を知らされた。
入学式でアリスに手を差し伸べた男性、そして媚薬を飲まされた男性は同一人物で、アリスのターゲットになるために、学園に送り込んだ人物である。
そう、知らないところでルナリーゼの案が採用され、アリスを退学させるネタを監視させていたのである。
この男性は、一年前に学園を卒業した18歳なのだが、童顔を見込まれて14歳として入学していた。
調査部門の所属で、童顔・小柄を活かして女装もできる将来有望な人物である。
仕込みだったのかと呆気に取られたが、実際にアリスに惑わされた令息ではなくてホッとした。
「『マニュアル』のお陰で、事実、誘いに乗る令息が減っているための作戦でもあったんだ。
実際の14歳の令息にスパイ行動をお願いするわけにはいかないからね。」
学生たちは事件の内容は把握していたが当事者二人が退学していたため、すぐに興味を無くした。
一部の学生は、『マニュアル』みたいなことは本当に起こるんだなぁって他人事のように思った。
それからは問題も起こらず、楽しい学園生活をみんなで満喫することが出来た。
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