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しおりを挟むアダム王子とリリーベルが11歳になった年、王城の庭園で開かれる子供向けのティーパーティーに出席した。
学園に入る前に顔と名前、兄弟姉妹の有無、親の爵位などの把握と、徐々に交友を広げ始めるためであり、婚約者を見つける一つの手段でもある。
王家主催は年に一度だけで、あとは各邸に招いて交流を深める。
幼馴染や事業関係などで既に婚約者がいる場合もあるが、大体がこの11歳から17歳の社交界デビューまでに婚約者を決める場合が多い。
なので、婚約者が既にいる場合は、それ目的で声が掛からないように胸元に白いバラがついている。
アダムとリリーベルの目的は…要注意人物探しである。人が多ければトラブルも起こる。
その時の言い分や周りの対応をさりげなく見ていく。
あとは、仕草やマナーを見れば、なんとなくわかる。
そして、学園に入学していると思われる年齢の令息たちの近くを通った時、その言葉は聞こえた。
「やっぱ、令嬢って笑顔が胡散臭いし、口元隠して笑うからかわいくないよなー。」
「学園の平民の子らのにっこり笑顔がいいよなぁ。自然な感じで。」
「すぐ腕組んできて胸当たるよなー。」
「婚約者が睨んでくるんだよ。嫉妬丸出し?結婚したくねえなぁ。」
「平民の愛人をつくるかなぁ。」
(ねぇ、アダム。今聞こえた会話なんだけど、嫉妬なのかしら?
婚約者がどなたかわからないけど、軽蔑の眼差しなんじゃないかしら?)
(軽蔑の方が正しいかもね。嫉妬するほど好かれてるとは思えないね。)
小声で話しながら移動する。
次は女性の近くを通りかかる。
「私は子爵の三女だし、自由にしていいって許可を貰ったの。
だから、今年学園に入るけど、勉強を頑張って官吏試験を受けたいわ。」
「そうなのね。私は婚約者が魔術師で王城勤務なの。だから魔術塔の職員か侍女として働きたいわ。」
「私は結婚して、向こうのご両親に領地の管理について学ぶの。婚約者の負担を手伝うつもりよ。」
(ねぇ、アダム。世の中、女性の方が地に足がついているっていうか現実が見えてるって思わない?)
(全くその通りだね。)
王城で働くには各部門毎に必ず試験がある。親のコネや世襲は関係ない。
侍従・侍女には紹介制度があったが、アダム王子の事案以降、きちんと面接を設けた。
ティーパーティーは大きなトラブルもなく無事に終了した。
アダムとリリーベルはパーティーで耳にした出来事をそれぞれの両親に報告した。
そして、各々実感した。やはり、貴族令息の平民女性に対する『マニュアル』が必要だと。
それにしても、夢の出来事を知らないはずの二人が聞いてきた話題の的確さに驚かされた。
マリエルが作成した『マニュアル』は、ルナリーゼが開催した王妃のお茶会で、まず高位貴族の集まりからさりげなく配布された。
令息がいる家だけでなく、令嬢の家にも。婚約者がやらかす可能性があるためである。
巻き込まれないためにも婚約破棄はお早めに。ということである。
そして、各家のメイドや侍女たちの休憩中のおしゃべり姿をこっそり令息に見せてみるのもよいだろう。と。
メイドは主に平民で、侍女は下位貴族が多い。平民・下位貴族・高位貴族の言葉遣いとマナーがすぐ分かる。
その平民のメイドが自分の妻として屋敷で一緒に過ごす姿を想像が出来るのか。パーティーに連れて行けるのか。
自分の婚約者と打ち解ける努力をしているのか。婚約者もいつも令嬢姿ではないのだ。
確かに自分たちも子供の頃は、自然に笑顔で笑っていた。
胡散臭い笑顔は、本音を隠すための淑女教育の賜物である。
自然な笑顔を引き出すのは婚約者としての特権で、お互いの好意が必要である。
など、提案したのである。
『マニュアル』は、一部の平民女性及び平民として生活していた貴族の庶子に当てはまることであり、全員がそんな女性ではないので、警戒しすぎる必要はない。
しかし、貴族令嬢と違い、平民は結婚時に純潔は必須ではないのだ。
彼女たちは自由恋愛なのだ。親しくなりたい・奪い取りたい・貴族の愛人になりたい。
そのアピールを止めることは出来ないが、拒否することは出来る。
すると、おそらく次の人物を狙うために去っていくだろう。…彼女たちは逞しいから…
既婚男性にも言えることだが、平民の愛人が産んだ子が自分の子だという証拠は難しい。
…確か隣国で、血縁関係がわかる魔道具?が発明されたとかされそうだとか?
高位貴族で愛人がいる男性は、自分の別宅に囲うことが多いので、血縁はほぼ確定であるが。
と、『マニュアル』に載せていないことを王妃と公爵夫人が説明や提案を始めたので、今聞いたことを親用として『マニュアル』にして欲しいと要望があった。
子供に説明しやすいように。…そして、さりげなく夫に読ませるために…
(愛人を持つ夫が増えてるのかしら?夫婦の会話が減って、言いたいことが言えないのかしらね?)
結果、学園では、高位貴族及び婚約者がいる令息と平民・貴族の庶子令嬢との接点が激減したという報告がもたらされた。
アダムたちが入学する2年前のことであった。
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