5 / 14
5.
しおりを挟む≪婚約式3日前≫
次の日は、学園の入学式の出来事から書き出し始めた。
よく恋愛小説にありがちな、躓いて膝をついた令嬢に手を出して立ち上がらせる王子…
お互いに一目惚れしたかのように見つめ合う二人…
休憩時間にはいつも一緒…
そして…
「…なんなの、この嫌がらせの内容の無さ。項目だけはいろいろあるけれど…
これって実際に起こったことじゃないから、その場面の夢の記憶がないってことじゃない?
されたことを言い並べているのは令嬢だし、王子はそれを聞いて判断しただけ。
どこにリリーがやったと思う根拠があるのかしら?
まさか令嬢が言った、『アダム様には婚約者がいるのでしたよね?』=『リリーが犯人?』なの?!」
先入観はよくないと思いつつも湧き上がってくる推測に怒った後、涙が流れた。
しばらく心を落ち着かせていると、扉がノックされ返事をすると入って来たのはリリーベルだった。
「お母様、お茶の前にお兄様の剣の訓練を覗きに行きませんか?」
「ええ、いいわよ。あなたももう少ししたら訓練が始まるから興味があるのね。
でもカイルの訓練とは内容が違うわよ?リリーは短剣の扱いと護身術の訓練ね。
基本的には護衛が一緒にいるけど、万が一の時の為だから…」
「わかっています。
でも、私はアダム様の婚約者になるんだから、アダム様を守れるように頑張りたいわ。」
「……誰かにそう言われたの?」
「いいえ?ご本の王族の方々は、騎士や側近に守られています。だから私も頑張ります!」
ニコニコと笑顔で答えるリリーベルに、夢の中で見た短剣を上手く使いこなす姿が重なった。
(剣術が上達したのは、アダム王子のためだったのね。上達し過ぎて嫌われたけど。)
アダム王子との婚約がこの先どういう結果になったとしても、リリーベルの頑張りは無駄になることは
ない。未来を絶対変えるのだから。
「焦ってはダメよ。ケガをしてしまうから。
リリーの上達に合わせて指導してくださる先生の指示に従いましょうね。」
「はい!」
話しているうちに、訓練場に着いた。
カイルが指導されているのが見える。
あの子も…剣の筋が良いそうだ。だが、本人は騎士になる気はないらしい。
公爵家の跡取りになる予定だが、ジークのように王城で働くか、領地に役立つ事業を興すか…
ジークの父、子供たちの祖父は公爵としての仕事と興した事業の仕事で王都と領地を行ったり来たり
している。そろそろジークに公爵位を継承させるみたいだ。引退後は事業をどうするつもりなのか。
ジークは王城の仕事と公爵の仕事があるので、父の事業は責任者として判を押すだけにしたいらしい。
ならば、カイルが祖父の事業を継いで更に大きくすればよいという案もあるが、本人次第だ。
現地に信頼できる管理者が常駐しているので、そのまま管理者の後継も育ててもらいたい。
マリエルが管理する?責任を負わないアドバイスなら今でもしているが、義母に託された慈善事業と
公爵邸の管理で手一杯だ。何故かマリエルだけ既に公爵夫人の仕事をしている…。
リリーベルは目を輝かせて訓練を見ていたが、どうやらカイルの訓練が終わったようだ。
こちらに歩いてきたカイルに、お茶の用意をするので着替えたらテラスに来るように伝えた。
「カイル、剣の扱いがまた上手になったわね。
体に合わせて長くなったのに、重そうになかったわ。力がついたのね。」
「そうですね。毎日、基本運動をしていたら体力がつきました。怠らずに頑張ります。」
「お兄様、かっこよかったわ。周りの騎士様たちも素敵だった。私も頑張るわ!」
剣の扱いはかっこよさを競うものではないが…実情を把握しているカイルとマリエルは苦笑した。
自分や誰を守るために剣を振るうには相手がいるのだ。…剣と流血は切り離せない。
リリーベルは頭が良い子だ。おそらく、訓練を始めて間もないころに気付くだろう。
夢の中では理解していたから、おそらく大丈夫だろう。
本当に頑張り屋の良い子たちだ。
160
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説

王子様、あなたの不貞を私は知っております
岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。
「私は知っております。王子様の不貞を……」
場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で?
本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

貴方でなくても良いのです。
豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

愚かこそが罪《完結》
アーエル
恋愛
貴族として、まあ、これで最後だと私は開き直ってでたパーティー。
王家主催だから断れなかったと言う理由もある。
そんなパーティーをぶち壊そうとする輩あり。
はあ?
私にプロポーズ?
アンタ頭大丈夫?
指輪を勝手に通そうとしてもある契約で反発している。
って、それって使用禁止の魔導具『隷属の指輪』じゃん!
このバカ、王太子だけどぶっ飛ばしちゃってもいいよね?
他社でも公開

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。

最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。


ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる