貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。

しゃーりん

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それから7年の月日が経った。

王太子殿下は30歳で国王陛下となり、35歳となった今は忙しく、この1年ほど側妃の元に行くこともない。
性欲も年齢と共に落ち着いてきたのだ。


もちろん、側妃ローザリンデは妊娠していない。
25歳になった今、妊娠は無理なのかもしれないと思っている。
それでも王宮から出ることもなく、国王が来ることもなくなった部屋で過ごしている。

そして、毎日毎日、自分はどこで間違ったのだろうかと考えている。

公爵夫人として貴族夫人の頂点に立つつもりだった。
王族とは年齢差があった分、結婚相手として見ていなかったために側妃の扱いを知らなかった。
こんなに表に出ることのない妃だっただなんて。
これでは公爵夫人より上の立場だなんて言えない。
ソレーユが側妃に選ばれたとしても羨ましがるような地位ではなかったのだ。

どうして自分はあんなにソレーユに対抗意識があったのだろうか。
……それは恐らく、ソレーユに勝てるのが身分だけだとわかっていたから。ただそれだけ。


「ねぇ、レジャード公爵家に嫁いだ義妹のソレーユって今どうしてるかわかる?」

「ソレーユ様は3人目のお子様をお産みになられたそうです。
 夫婦仲もとても良くて、とてもお幸せそうですよ。夫人方からの評判もいいみたいで。
 元々のご実家の伯爵家も目覚ましい復興を遂げられて、そちらもお子様が2人とか。
 ローザリンデ様の従兄、伯爵様のお子様ですね。」

「……そう。あの従兄妹たちは子供を産んで幸せなの。
 どうして?私には出来てくれなかったのに。」

「え?ローザリンデ様はお子様をお望みだったのですか?」

「当たり前じゃない!王子を産むことを望まれて側妃になったのよ?なのに産めなかったの。」

「あら?陛下は王妃様以外のお子様は望んでおられないと伺っていたのですが。」

「……どういうこと?側妃って子供を産むためにいるんじゃないの?」


久しぶりの『勘違い側妃様』ご降臨だ。


「必ずしもそうではありませんよ?
 もちろん、お子様を望まれる場合もあります。
 ですが、頻繁な閨事で疲れる王妃様を助ける愛妾のような場合もあります。
 こちらの場合は、娼婦では病気を移される可能性がありますので、純潔の令嬢を愛妾側妃とします。
 あとは、王妃様がご病気や知識不足で執務に影響が出る場合にそれを補う側妃ですね。」

「……それって、誰でも常識で知っていることなの?」

「失礼なことを言うようで申し訳ございませんが、正妃の条件を満たす高位貴族には常識かと。」


王族について学んだ時に、正妃になれないなら意味がないと側妃にも興味がわかなくて話をちゃんと聞いていなかったんだわ。
お父様もお母様も知っていたのなら止めてくれたらよかったのに。
……話を先にベネディクト様にしたのが悪かったのね。
ベネディクト様が婚約解消を了承したから、レジャード公爵家に先に伝わってしまったから、お父様は公爵として、完璧令嬢と言われた私の意志を優先してくれたんだわ。
それなのに…………


「ははっ……私は愛妾側妃だったってわけね。今じゃ、その役目すらないわ。」


ただ単に、精を吐き出すための器だったということだ。
愛を求めても、子を求めても、有り得ないものだったのだ。

 
「前に、あなたが子供を産んだら夜会やお茶会にも出られるって言ったことと違うじゃない!」

「それは夜会やお茶会について出られる条件を聞かれたので、それをお答えしただけです。」

「私には無理だと知っていたのに?」

「ですが、もしかしたら避妊が十分でなく妊娠する可能性もあるかと思いましたので。」 


いつものように、侍女キャロルが部屋を出てから絶叫すると思っていた。
しかし、この日のローザリンデはいつもとは違った行動に出た。

ローザリンデは、ペーパーナイフで侍女キャロルを切りつけようとしたのだ。
手紙など、届くはずもないのにずっと置いてあったペーパーナイフで。

子供を産むまで外の世界とは遮断される。それを知っても置いてあったペーパーナイフ。
いつか、使う日を夢見ていたのに………


ローザリンデは、病気療養として離宮に隔離され、やがて亡くなった。
錯乱して、ガラスに突っ込んだのだ。
そのことはタフレット公爵にも伝えられた。
子供が産めなかったことを悲観して心の病気になり錯乱した、と。
ローザリンデはひっそりと埋葬された。



カシム伯爵家の鉱山は、クズ鉱山ではなく宝の鉱山だった。
領地は復興し、伯爵である兄も結婚した。
相手は子爵令嬢。
ソレーユと共に領地まで来た侍女ミイカだった。

兄よりも1歳年上のミイカは戸惑っていたが、兄が望んだのと、レジャード公爵夫妻の勧めもあって。
ソレーユの侍女ではなくなるのは寂しいけれど、義姉になるので嬉しかった。
子供も2人できて、こちらも仲の良い夫婦だった。



領地が災害に見舞われ、両親が亡くなり、婚約解消になった。
王宮侍女になる予定が、側妃候補に選ばれ、ローザリンデが立候補した。
ローザリンデの代わりに公爵家の養女になってベネディクトに嫁いだ。

お陰で、伯爵領も復興し、事業により余裕もできた。

ソレーユとベネディクトは3人の子供に恵まれて幸せに暮らした。

正直言って、私たちにとってローザリンデには感謝の気持ちしかない。

たとえ、ソレーユへの対抗心だけで側妃になったのだとしても、私たちは幸せになったのだから。

ローザリンデも立候補して側妃になれたのだから、幸せだったのよね?……なわけないか。
 



<終わり>
 
 
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