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しおりを挟むタフレット公爵とベネディクト、レジャード公爵による婚約解消の話し合いは事業の話も併せて円満に終了し、双方が書類にサインをして無事に終えた。
その後、タフレット公爵の娘、ローザリンデ嬢が側妃に立候補すると伝えられた。
それにより、選定も終了することになった。
公爵令嬢が側妃になることを望む。
それは、王太子妃が他国の王女だったことを除いて、有り得ないことだった。
現王太子妃は元侯爵令嬢。つまり、側妃の方が実家の権力が強いことになる。
しかし、タフレット公爵家は代々忠臣であり現公爵も野心はない。
それに、王太子妃の王子が跡継ぎになることは決まっているので、ローザリンデが王子を産んだとしても第二王子を担ぎ上げることは許されないのだ。
なぜ、公爵令息の婚約者であったローザリンデが婚約解消してまで側妃に立候補したのか。
そのことを正確に理解できたものはほどんどいないだろう。
ただ、単に従妹の伯爵令嬢が自分よりも上の立場になることを許せないというだけの、とてもどうでもいい理由なのだから。
そのどうでもいい理由のために、ローザリンデは不自由な生活を強いられることになるのだが、まだそれに気づいてはいなかった。
学園の卒業試験も無事に終了し、卒業式も間近に迫っていた。
ローザリンデは卒業式の翌日に側妃として王宮入りする。
ソレーユはひと月後、王宮侍女の寮に入り仕事が始まることになる。
つまり、ひと月はローザリンデがいない公爵家で過ごすのだ。
実際には、伯爵家の領地に顔を出して復興具合と兄の様子を見に行くつもりでいるので羽を伸ばせるというほど公爵家では過ごさないけれど。
この3か月が長かった。前までの生活が平穏に思えるほどに。
側妃になるつもりはないと言ったし、打診されたわけでもないのに、何度も何度もお前が側妃になれるわけがないと言われ続けた。
その後、何を思ったのか自分が婚約解消してまで側妃に名乗りをあげた。馬鹿じゃない?
側妃になることが決定してからは、自分が相応しいから認められたと優越感に浸っていた。
別に羨ましくも何ともないんですけど?
ローザリンデは頭がいいはずなのに。それは一般的な勉強の知識だけなの?
まさか、側妃がどうやって暮らすのかも知らないで王宮に行くのかしら。公爵令嬢なのに?
……教えて、今更側妃にならないなんて言われたら公爵家が恥さらしになるから言わないけど。
あと数日でこのローザリンデを羨ましがらなければいけない嫌がらせ生活も終えることになる。
ローザリンデ付の侍女であった者たちは、王宮にはついていけない。
数名はネルソンに嫁ぐアメリー嬢の侍女になり、他は他家に移るか公爵家で違う仕事をするか。
アメリー嬢も実家から侍女を連れてくるので侍女が多くなりすぎるから。
それにしても、あとひと月遅らせればネルソンの結婚式にローザリンデも出られるのに。
ひょっとして、誰も気づいていないとか?
余程のことがない限り、側妃が王宮から出ることはないのよ?
兄の結婚式って、余程のことに該当するのかしら………
このタフレット公爵家ではこの国の側妃の立場を教えられていないのかしら?……まさかね。でも不思議。
ローザリンデは言ったことに対して意思が強いから、公爵夫妻は説得を諦めたのかな。
そして、卒業式の翌日、ローザリンデは満面の笑みで王宮へと出発した。
ソレーユに、『王宮侍女のアンタと会える日を楽しみに待ってる』と言って。
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