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シェルニアは、テック公爵夫人に心からの謝罪した。


「申し訳ございませんでした。テック公爵夫人のお怒りは当然のことでしたのに失礼なことを申し上げました。」

「……もういいわ。気にしないで。私も言い方が悪かったわ。」
 

テック公爵夫人は、シェルニアが妊娠しないことをとても気にしていたらしい。
ハリソンが第二夫人を迎えることになれば、同じ屋敷の中で暮らすことになる。
夫を共有することも、自分が産めなかった子供を見ることになるのもつらいことになるだろう、と。

だからつい、カサンドラ妃殿下のようにシェルニアが妊娠できていたらと思ってしまったのだ。

王家に嫁いでいても同じことだが、王家の場合は側妃が表に顔を出す機会はそうそうない。
だが第二夫人の場合は、夜会に連れて行くことができるので、貴族からはどちらの妻が大事にされているかなどと比較されることがあるという。


「夫に愛人がいることを知っているのと、もう一人の妻が屋敷にいるのとでは心情的に大きく違うでしょう?テック家の男は妻を大事にしてくれるけれど、愛してはくれないの。
ハリソンを愛していないあなたなら、あの子の妻になっても平気かと思っていたけれど、うまくいかないものね。」


公爵夫人はシェルニアのことをいろいろと気遣ってくれていたようだ。


「ご期待に沿えず申し訳ございませんでした。」

「忘れましょう。あなたはこれからどうするの?再婚を考えていて?」

「いえ、家族にも迷惑をかけてしまったので、父や兄を手伝うことができれば、と思っています。」

「そう。あなた、少し変わったかしら。落ち着いたように見えるわ。」

「そうかもしれません。肩の力が抜けたというか。まだ自分を見つめ直している途中ですが。」

「余裕ができたのかもしれないわね。これからのあなたの人生を応援しているわ。」

「ありがとうございます。」


14歳でジャレッド王太子殿下の婚約者候補に選ばれてから、努力し続けてきた。
自分が選ばれるはずだ。そう思い続けて、私は間違っていない、失敗などしていないと思い込んだ。
カサンドラが選ばれたことも、容姿が好みだっただけだと自分に言い訳をした。

そして失恋を受け入れられないまま、ハリソンと結婚した。
ハリソンが自分の好みの容姿ではないからと彼も結婚を嫌がっているに違いないと思い込んだ。
貴族の結婚だというのに、どうでもいい理由で白い結婚を頼むなんて私は愚かだった。

ハリソンの妻でありながら閨事をしていない自分が女性として劣っているように感じるという理由で抱かれたいと思うようになったことも、愚かだ。
素直に、白い結婚を止めたいと言えなかったことも、失言をしてしまったこともそうだ。

シェルニアは、ずっと焦り続けてきた。心に余裕がなかった。自分の失敗を認められなかった。 

ハリソンとあの屋敷で話をしてから、シェルニアは心の整理ができ始めたような気がする。


まるで思い通りにならなければ我が儘を言い、言い訳をする子供のようだった愚かな自分には戻りたくない。

テック公爵夫人に謝罪したことでようやく、シェルニアは大人へと一歩踏み出したと思えた。 



 
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