19 / 22
19.
しおりを挟むハリソンは屋敷から出て行く元妻シェルニアを見送って、ため息をついた。
王太子であるジャレッドが、カサンドラとシェルニアのどちらを妃に選ぶかを悩んでいたことは知っている。結局は自分の好みでカサンドラを選んだが、ジャレッドは決してそれが良かったことだとは思えていなかった。
妃になる能力としてはどちらも問題なかった。
だが、カサンドラは打たれ弱く、考えが受け身のところがある。
そしてシェルニアは思い込みが激しく素直ではない。
妃としてはシェルニアの方が向いているとハリソンは思っていた。
妃が独断で動くことは少ない。思い込みなど筋を正せば納得すること。
少々気が強いくらいの方が上に立つ者として舐められないからだ。
だが、母親である王妃が優しい気質なので、ジャレッドもカサンドラの方がしっくりきたのだろう。
しかも豊満な胸が魅力的で選んだようなものだった。
だが、カサンドラとの閨事がつまらないとジャレッドは言った。
常に受け身で、人形のようらしい。不感症なのかと思うほどで、なんとか子供はすぐにできたが、出産後はそれとなく拒まれていると言っていた。
カサンドラは閨事が好きではないのだろう。ジャレッドが下手だから……とは思えない。
シェルニアを選んでいれば……ジャレッドは何度か、そう言った。
そして俺に、『まだ白い結婚なのか?』と聞く。
ジャレッドは、シェルニアなら閨事のどんな要望でも応えてくれたのではないかと思っている。
だから、俺に実際はどうなのか確かめたかったのだ。
確かめたところで、ハリソンの妻であるシェルニアを抱けるはずもないのに。
もし、シェルニアが閨事に積極的で具合がよかったとしたら、尚更、後悔が募ったはずだ。
ハリソンも、離婚までにシェルニアを抱くつもりだった。
彼女が素直になる機会をいくつか作ったが、斜め上の想像をして思い込んだり、企みだと気づいたシェルニアは頑なだった。
そして母を怒らせたことで離婚が決定的になってしまった。
まだ猶予はあると呑気に思っていた自分の失態だった。
こちらから折れてやることもしなかったせいで、離婚となった。
素直ではないのはこちらも同じだ。
まぁ、誰が妻になろうと大差はない。シェルニアにこだわる必要もないというのが本音で、次の婚約者に内定している令嬢に一途になることもあり得ない。
王子だろうが公爵家の息子だろうが男爵家の息子だろうが平民だろうが、浮気する男は浮気するのだ。
この屋敷は、父から継いだものだ。
母は2年以内に子供を産んだために父に第二夫人はいないが、ここに年単位で愛人を住まわせていたらしい。約1年毎に代えていたそうだが、それでも10数人が住んでいたことになる。一夜の遊びも含めればもっと多くなるだろう。
お忍びで来た国王陛下にも貸したこともあるという。屋敷だけでなく、愛人も。
実の妹の夫だというのに、子供をつくらなければ問題ないというのが男たちの認識だ。
俺の初めての相手も、父の愛人だからな。
いつか、俺も自分の息子に同じことをするかもしれない。
シェルニア、君は遊び相手になることを断って正解だったよ。
もし今日、君が俺に抱かれていれば、そのうちジャレッドの相手もすることになっただろう。
俺じゃなくジャレッドに純潔を捧げても、そのうち俺の相手もすることになっただろう。
そして10数年後、俺の息子の相手をすることになっていたかもしれない。
だから、断ってくれてよかった。
505
お気に入りに追加
644
あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

あらまあ夫人の優しい復讐
藍田ひびき
恋愛
温厚で心優しい女性と評判のカタリナ・ハイムゼート男爵令嬢。彼女はいつもにこやかに微笑み、口癖は「あらまあ」である。
そんなカタリナは結婚したその夜に、夫マリウスから「君を愛する事は無い。俺にはアメリアという愛する女性がいるんだ」と告げられる。
一方的に結ばされた契約結婚は二年間。いつも通り「あらまあ」と口にしながらも、カタリナには思惑があるようで――?
※ なろうにも投稿しています。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです
よどら文鳥
恋愛
貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。
どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。
ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。
旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。
現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。
貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。
それすら理解せずに堂々と……。
仕方がありません。
旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。
ただし、平和的に叶えられるかは別です。
政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?
ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。
折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる