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しおりを挟む再婚相手が一人もいないと兄から言われ、シェルニアは驚いた。
「お兄様、いない、ってそんなことはないでしょう?」
「お前は公爵令嬢だ。公爵家・侯爵家が望ましいが伯爵家までが嫁ぎ先としての許容範囲だろう。
そして、目ぼしい貴族家は既に妻がいるか婚約者がいる。残るのは借金があるなどして嫁のなり手がいない貴族家くらいだ。それでもいいなら嫁げるが。使用人はほとんどいないだろうな。」
「嫌よっ!」
「あとは、家を継がない次男・三男だな。」
「……それって貴族らしい暮らしができるの?」
「できないな。どちらかと言えば、平民に近い暮らしだろう。」
シェルニアはそこまでいないとは思っていなかった。
「それに、お前は子供が産めるかどうかわからないと思われているから、持参金や援助目的で縁談を申し込まれることはあっても子供が既にいる相手か、夫の愛人が子供を産むことを許すことになる。
つまり、お前が期待するような結婚相手は誰もいない。」
「……そんな。」
お金目当ての相手なんて、どんな扱いをされるかわからないわ。私を人質のようにして公爵家から金を引き出そうとするかもしれないのだから、そんな相手は嫌よ。
「そもそも、お前はずっと思い違いをしている。ハリソン殿との結婚は王妃様の心遣いではないし、王妃様が次々と紹介してくれるような令息など当時からいるはずがない。」
「え……?王妃様じゃないの?」
「ああ。本来は、王太子妃候補から落ちた場合でも結婚に困らないように各家で受け皿となってくれる令息を打診しておくんだ。でないと、お前みたいに高位貴族令嬢の結婚相手がいなくなってしまうから。」
「じゃあ、ハリソン様はお父様が打診してくれていたってこと?」
「いや、それも違う。父上はお前が王太子妃になるだろうと思っていた。いつもお前は自信満々だっただろう?だが、一応打診はしておこうと行動したが遅かった。婚約者がいないと思えば他の王太子妃候補から打診を受けていたり、それにお前は従弟のことも拒んだだろう?」
従弟は2歳下で、万が一の結婚相手と言われたとき、拒絶した。
本人の前で、ジャレッド王太子殿下と比較したことを言った覚えがある。従弟は……睨んでいた。
その後、交流はない。
「ハリソン殿は、ジャレッド王太子殿下が選ばなかった令嬢が、誰の受け皿もなかった場合に念のためと婚約者を作らずにいてくださったのだ。もちろん、テック公爵夫妻とハリソン殿本人の意思でね。
最後まで残った王太子の婚約者候補なんだ。家柄や素質に問題はないはずだ、とね。
それぞれに相手がいれば、彼の出番はなかった。彼は公爵令息だから、何歳になろうと相手には困らない。」
「……私に相手がいなかったから、ハリソン様が結婚してくれた?」
「そうだ。お前が白い結婚だなんて言い出す前は、いろいろと贈り物をしてくれたりデートしたりしてくれていただろう?婚約者としてお前のことを知ろうとしてくれていたんだ。」
そうだった。嬉しかったのを覚えている。
「だけど、ハリソン様はカサンドラ様が好きだったのよ?彼女が王太子妃に選ばれなかったら結婚しようと思って待っていたのに私になったから、彼も結婚を望んでなかったはず。だから白い結婚に同意したのでしょう?」
「前にも、彼がカサンドラ妃殿下のことが好きだと言っていたが、本人から聞いたのか?」
「……違うわ。昔、学園かどこかで誰かが言ったの。『ハリソン殿もカサンドラ様だ』って。」
「それは、ジャレッド王太子殿下が誰を選ぶかの予想のことじゃないか?毎年のように男たちはやっていたぞ?」
「そうなの?」
確かに、今思えば公爵令息の好きな人が王太子殿下の婚約者候補って知られている方がおかしいわ。
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