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その夜、ハリソンが呆れた様子で部屋にやってきた。


「母上を怒らせたようだな。よほどでないと怒らないんだけどな。
母から言われたことは2つ。1つはもう君と閨を共にしないこと。もう1つは第二夫人を選ぶこと。」 

「…………あてつけで、いえ、違う、子供が………」


何を言えばいいのか、わからない。どれも言い訳がましくなってしまう気がして。


「ちょうどいいじゃないか。どうせ、あと数か月。俺が第二夫人を考えている様子を見て、君は離婚を選ぶことにした。それでいいだろう?予定通りじゃないか。」

「そう、だけど。」
 

何か、思っていたのと違う。
私の予定では、子供ができなくて申し訳ないと思っているので、自分は離婚して実家に帰る。だから、第二夫人ではなく新たな妻を迎えてほしい。そう申し出ることで蟠りを残さずに離婚するはずだった。

だけど、このままで離婚することは子供ができずに追い出されるようではないか。
いや、義母は第二夫人を迎えるつもりなのだから、惨めな思いに耐え切れずシェルニアが逃げるように離婚を選んだということになる。
 
同じ離婚でも、円満とは言い難くなってしまう。社交界でシェルニアを悪く言われるかもしれない。

実家に迷惑がかかってしまう?


「……何かいろいろと考えてそうだが、悩む必要もない。2年が経つ日を指折り数えていたらいい。」


そう言ってハリソンは部屋を出て行った。

本当に指折り数えて待っていればいい?

離婚することは結婚前から決めていたこと。
今更、義母に謝ったとしても結局は離婚するのだから、無意味な行為になる?
 
正しい行動が何なのか、わからない。


 

翌日から義母との会話は激減した。
無視されているわけではないが、視線は全く合わない。


「来週のお茶会、シェルニアさんは欠席してもらえるかしら?」

「欠席……」

「ええ。あなたに気遣って、お孫さんの話ができないと気の毒でしょう?産まれたばかりですもの。」


そうだった。来週はカサンドラ妃殿下の実家、マーレン侯爵家でのお茶会だった。


「ですが、私もお話を聞いてみたいと……」

「シェルニアさん、義母として、テック公爵夫人としての命令よ。欠席なさい。」

「……かしこまりました。」

「わかってくれればいいわ。どんな失言をされるかと思うと怖くて。」


失言……。あれはあてつけのようなことを言われて思わず言葉選びを間違っただけなんだけど。
つまり、それを失言というのね。

そう言えば、前にハリソンに対しても失言をした気がするわ。
あの時は何が原因だったかしら?……ああ、ハリソンが女を抱いてきたと浮気を口にしたときだわ。
私の代わりに他の女を抱いて汚らわしいと言ってしまった覚えがある。

私って、イラっとくると失言しやすいのかもしれないわ。初めて気づいた。
 






 
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