10 / 22
10.
しおりを挟むハリソンの企みに嵌まるということは、シェルニアが白い結婚を止めるということ。
その手に乗るつもりはなかった。
「いかにも浮気してきましたって姿を見せれば私が白い結婚を止めると言うと思ったのでしょう?それをずっと待っていただなんて、もっと早くその気はないと言っておくべきだったわね。」
ハリソンと閨を共にしないで後悔しないかと悩んでいたことはもうどうでもよかった。
私は、愛する人としか抱き合いたくないもの。
ハリソンは眉をひそめた後、言った。
「何を、どう勘違いしたらそういう結論になるのかはわからないが、俺は君に遊んでいいか確認を取った後、少なくとも週に1度は女を抱いているぞ?」
まさか。そんなはずないわ。そんな時間がどこにあったというの?
「君には経験がないからわからないのだろう。男の欲の発散なんて、交わらない時は早ければ10分もあれば済むときもある。交わる場合も必ずしもベッドが必要なわけじゃないぞ?立ったままでも座ったままでもできるんだから。」
……夜にベッドの上で裸になって性器を挿入して、何時間も子種が出るのを待つものじゃないの?
こんなことを聞いたら確実に笑われそうね。閨事に関する知識なんて私にはほとんどないもの。
早ければ10分?そんなに手早く終わることもできるのね。だから、部屋で男性と2人きりでいると不貞を疑われることになるのね。納得だわ。
男女の交わりがどんなものなのか、やっぱり知りたい。そう思った。頼めばハリソンは抱いてくれる?
「もういいだろう?早く寝たいんだ。部屋から出て行ってくれるか?」
「あ、……わかったわ。おやすみなさい。」
そうだった。今さっき誰かを抱いてきたばかりなのであれば、今日は頼んでも無理なのよね。
次はいつ頃ならできるようになるのかしら。
男性の性欲のことなんて全くわからないし、ハリソンと夫婦ということになっているから誰にも聞ける相手がいないわ。
実家に帰って、お兄様にでも聞こうかしら。
そんなことを考えた翌朝、ジャレッド王太子殿下とカサンドラ王太子妃殿下の間に王子が誕生したという知らせが王都中にもたらされた。
「妃殿下は婚姻後数か月で懐妊なさって王子をお産みになられるなんて、素晴らしいことだわ。
あ、ごめんなさいね。シェルニアさんにあてつけて言ったわけではないのよ?」
1年9か月を過ぎても妊娠しない嫁であるシェルニアに、義母は『妊娠はまだか』と直接言ってきたことはなかった。
だけど、今の言葉には悪意を感じた。
「私がジャレッド王太子殿下に嫁いでいたとしても同じように産めたと思います。」
義母のあてつけに対して思わず出てきた言葉は白い結婚をしている私が言っていい言葉ではなかった。
「……あなたは自分が妊娠しないのはハリソンに問題があると言いたいのね。」
優しい義母を怒らせてしまった。
「いえ、そういうつもりで言ったのではありません。王太子殿下が優秀なのだという意味で……」
また言葉選びを間違ってしまった。素直に謝罪するべきだったのに。
「わかりました。ハリソンには第二夫人を検討するように伝えます。そうすればあなたたちのどちらに問題があるかはすぐにわかるでしょう。もう頑張らなくて構いませんよ。これ以上、月のものがくる不安や来た時に悲しむことも必要ありませんし、もうハリソンと閨を共にする必要もありませんね。
第二夫人が来る。その心構えだけ、しておいてください。」
義母はそう言い残して去って行った。
確実に、怒らせてしまった。
307
お気に入りに追加
651
あなたにおすすめの小説
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完結】王太子殿下に真実の愛だと見染められましたが、殿下に婚約者がいるのは周知の事実です
葉桜鹿乃
恋愛
「ユーリカ……、どうか、私の愛を受け止めて欲しい」
何を言ってるんだこの方は? という言葉を辛うじて飲み込んだユーリカ・クレメンス辺境伯令嬢は、頭がどうかしたとしか思えないディーノ・ウォルフォード王太子殿下をまじまじと見た。見つめた訳じゃない、ただ、見た。
何か否定する事を言えば不敬罪にあたるかもしれない。第一愛を囁かれるような関係では無いのだ。同じ生徒会の生徒会長と副会長、それ以外はクラスも違う。
そして何より……。
「殿下。殿下には婚約者がいらっしゃいますでしょう?」
こんな浮気な男に見染められたくもなければ、あと一年後には揃って社交界デビューする貴族社会で下手に女の敵を作りたくもない!
誰でもいいから助けて欲しい!
そんな願いを聞き届けたのか、ふたりきりだった生徒会室の扉が開く。現れたのは……嫌味眼鏡で(こっそり)通称が通っている経理兼書記のバルティ・マッケンジー公爵子息で。
「おや、まぁ、……何やら面白いことになっていますね? 失礼致しました」
助けないんかい!!
あー、どうしてこうなった!
嫌味眼鏡は今頃新聞部にこのネタを売りに行ったはずだ。
殿下、とりあえずは手をお離しください!
※小説家になろう様でも別名義で連載しています。
結婚式の日取りに変更はありません。
ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。
私の専属侍女、リース。
2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。
色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。
2023/03/13 番外編追加
【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。
やまぐちこはる
恋愛
エリーシャは夫となったアレンソアにおまえを愛することはないと言われた。
こどもの頃から婚約していたが、嫌いな相手だったのだ。お互いに。
3万文字ほどの作品です。
よろしくお願いします。
あなたが私を捨てた夏
豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。
幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。
ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。
──彼は今、恋に落ちたのです。
なろう様でも公開中です。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました
榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。
私と旦那様は結婚して4年目になります。
可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。
でも旦那様は.........
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる