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しおりを挟む気がついたら、自分の部屋の中にいた。
ジャレッド王太子殿下は、マーレン侯爵令嬢のカサンドラを選んだ。夢ではない。覚えている。
だけど、あの場から自分がどうやって退席したのかを全く覚えていない。
……私は、選ばれなかった。つまり、失恋した。
どうしてかしら。私と、カサンドラの何が違って、ジャレッドは彼女を選んだのかしら。
知りたい。けど、聞けない。聞いたところでもう自分が選ばれるわけではないもの。
シェルニアは努力した。自分が悪かったとは思えない。
それなのに、何がダメだったのかとジャレッド本人に問い詰めることなど許されない。
ただ、人にはそれぞれ好みがある。
シェルニアがジャレッドのことを自分の理想そのものだと思うように、ジャレッドにも好みがあるはず。
私は誰が見ても美人だと答えるはず。体形も悪くないと思っている。
カサンドラは誰が見ても可愛いと答えると思う。そして彼女は……胸が大きい。
なので、もしジャレッドの容姿の好みが可愛くて胸の大きな女性であるとすれば、シェルニアが選ばれなかったこともわかる。
いや、そうに違いない。
シェルニアはジャレッドの容姿の好みによって、選ばれなかったのだ。
私の中ではそう決まった。
その頃、シェルニアの父は国王陛下と王太子殿下から理由を聞いていた。
「テアンドル公爵、シェルニア嬢には申し訳ない結果になった。」
「……いえ、王家の決定に従うまでです。ですが、決め手は何だったのかお聞かせいただくことは可能でしょうか。」
国王陛下はジャレッド王太子殿下から伝えるように言った。
「シェルニア嬢は非常に努力家で優秀なご令嬢です。ですが、頭が固く思い込みが激しいように思います。
公爵令嬢として自分の非を認める機会などめったにあるものではないと思いますが、私的な場であれば自分の勘違いや失敗に対し、謝罪を口にすることは悪いことではないと私は思っています。
誰かに相談や頼ることなく自己完結してしまうと、周りとの意思疎通が図れません。
4年間、それが改善されることはなかった。私は、いろいろなことを相談し合える人を妻に迎えたい。」
テアンドル公爵は王太子殿下の言葉に頷いた。
「……そうですか。わかりました。ジャレッド殿下がおっしゃったことは親としても心当たりがあります。
娘は、自分が悪かったと思っても素直に謝れません。謝ろうと思っているのに、思わず言い訳をしてしまうのです。親としてはどう言い訳をしてどういう結論に達したまで聞いて楽しんでいましたが、それは家族だからと言えるでしょう。他の者に対して言い訳まで自己完結しているのであれば、話が通じない。
選ばれなかったとしても納得がいきます。」
元より、誰が選ばれても不服を申し立てることは許されていない。
ただ、シェルニアを納得させるために、親として理由を知りたかったのだ。
国王陛下が言った。
「変わりと言っては何だが、もし良ければシェルニア嬢の婚約者にテック公爵家のハリソンはどうかと思っているのだが。」
テック公爵家のハリソン。ジャレッドの母方の従兄弟である。
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