後妻の条件を出したら……

しゃーりん

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アークライトは、フォレスターに聞かれて自分が後妻に望む条件にあげたことを思い返した。
 

不貞をしない。 

結婚式をしない。

伯爵令嬢か子爵令嬢。

実家に援助を必要としない。

子供を望まない。

アークライトの子供たちの母親になる。

社交のパートナーになる。

必要以上に浪費しない。 

30歳以下。


こんな感じだったと思う。

あの時も思ったが、再婚である以上、それほど無茶な後妻の条件ではない。


顔が広いフォレスターは、この条件を受け入れるであろう令嬢を何人も知っていたに違いない。

その中でも会ったことがないはずのマデリーンを最初に選んだことは、流石としか言いようがない。

アークライトとマデリーンの相性は、とてもよかったからだ。

家族にも受け入れられたマデリーンは、クイン伯爵家に笑顔で明るい日々を運んで来てくれた。

前妻の不貞による離婚、そして虎視眈々と後妻の座を狙う貴族にうんざりして、どこかどんよりとした空気が漂っていたクイン伯爵家に必要な存在となった。 

フォレスターには心から感謝している。




しかも、フォレスターはエレンにも今後の生き方を助言したらしい。

話を聞いた時は、なるほど。うまく誘導したものだ。と感心してしまった。

有閑マダム風に生きるのであれば、他貴族に迷惑がかかることはない。
公爵家の財産が少しずつ目減りしていくだけのことであり、しかも、それも公爵家にとっては微々たる目減りと言えるだろうから。

公爵家を継ぐエレンの弟も、姉の嫁ぎ先と揉めるよりも、金さえ払えば独り身で自由に生きてくれる方が楽なのだから。

ただし、『既婚者の相手はしない』ことだけは約束させたとか。
金で解決することを繰り返せば、慰謝料目当ての相手に目をつけられることになるから。


家族と離れて暮らし始めたエレンも、最初の頃はドレスや宝石の値段を知ったり、執事や侍女の給金を知ったりと驚きの連続で、自分の自由になる月々の金がどれだけ莫大であるかをようやく悟ったという。

値段を知ったことで、確かに公爵家で暮らしていた時ほど何でも手に入れることはできなくなった。
しかし、それでも無茶なものでない限りは、ほぼ、何でも買える額がある。

月々の金は、父である公爵と弟である次期公爵と話し合った結果だが、結局はその2人も金銭感覚がおかしいからそんなことになるのだが、長生きしても後50年のエレンの人生に少々の目減りはどうでもいいことだった。

公爵は娘が不自由なく幸せでいてくれること、弟は自分や公爵家がこの先ずっと姉に煩わされないこと。
それが願いなのだから。
 

エレンは自分を楽しませてくれる男女をお茶会に誘ったりして日々、楽しんだ。
時には美形の10歳以上年下の若い燕をそばに置き、可愛がり、就職の面倒を見たりした。
最初の頃は、宝飾品と共に男の姿が消えたこともあったが、その経験も糧となった。

若い世代には、エレンはなぜか金持ちの未亡人と勘違いされていることもあった。
未婚ではあるが、有閑マダムとの違いは確かにない。

エレンの人生の最後まで寄り添ったのは、一人で暮らし始めた時に公爵家から連れてきた執事だった。
彼は執事を引退してからもエレンの希望で屋敷に留まり、一緒に食事やお茶を楽しむ関係になったとか。
 
彼女の真の幸せはすぐ側にあり、幸せなままこの世を去った。
エレン亡き後、屋敷も含めて全てのものが公爵家に戻された。

元執事は静かに消えていた。彼はエレンの監視人であり、エレンに絆された男でもあったのだ。




マデリーンの父、ランクス伯爵によると、夫人がマデリーンを嫌っていたのは、伯爵がマデリーンを抱きしめながら『お前が一番大切だよ』と言っていたことを出産少し前に聞いたことがきっかけらしい。
なので、マデリーンが憎らしくなり、顔も見たくなくなったということだった。
それなのに、伯爵はマデリーンの存在を忘れないことが我慢ならなかった。

父親なのだから当然のことだと今ならわかるし、夫人は反省しているらしい。

ランクス伯爵も、会話の流れは覚えていないが、『お前』ではなく『家族』と言うべきだったと言葉選びが間違っていたと反省したらしい。




マデリーンはシェリーとモートンに慕われ続け、我が子のように可愛がり寄り添った。

アークライトとも仲の良い夫婦として周知されており、陰口をたたかれることなどなくなった。


アークライトは一度、マデリーンに聞いたことがある。『自分の子供を産みたいか』と。

マデリーンならば、シェリーとモートンと我が子を平等に接するだろうから、産みたければそれもいいと思ったのだ。

だが、マデリーンの返答は『いいえ』だった。
我が子を産まなくても、クイン伯爵家の家族だと認めてもらっていることを肌で感じているから、と。

 
アークライトはマデリーンと出会えて心から幸せだと思えた。

自分が出した後妻の条件は、何一つ間違っていなかったのだと。



<終わり>
 
 
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