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しおりを挟むマデリーンの義母であるランクス伯爵夫人は、マデリーンが王都に、社交界に出てくることはない、出て来させないつもりで領地に追いやり冷遇していた。
あとは老い先短い老人に嫁がせて田舎に籠らせ、若い体が蹂躙された後は介護をさせて、その後は使用人として雇ってもらえばいいと思っていたのだ。
だが、夫であるランクス伯爵が自分に黙ってマデリーンに嫁ぎ先を見つけて結婚させていた。
しかも伯爵家。次期伯爵の後妻として。
後妻ということで少し溜飲が下がったが、相手がまだ20代半ばと聞き、憎らしくなる。
つまりそれは、マデリーンはこれから社交界に出てくるということを意味していたのだ。
そのため、義娘がずっと領地にいた理由を、一緒に暮らさなかった言い訳をしなければならなかった。
マデリーンを悪者にして、自分が同情してもらえるように。
なので、マデリーンがなぜ領地に行くことになったのか、領地でどういう暮らしをしていたかを悲痛な顔をして友人たちに語ったのだ。
信じなくても味方になってくれればよかった。
噂になれば、マデリーンの夫もクイン伯爵夫妻も、騙されたと離婚するのではないかと思ったから。
だけど、マデリーンに会った人たちは『過去は知らないけれど感じの良い女性だった』とマデリーンに好感を持っていたから、躍起になってマデリーンの嘘の本性を広めようとしていた。
それが、逆効果?
夫に離婚されるのは自分?
大切な娘、キイナの縁談の邪魔になっている?
アークライトの母、クイン伯爵夫人はランクス伯爵夫人の様子が変わったのを見て言った。
「自分の生んだ娘を跡継ぎにしたいと思う気持ちを否定することはしないけれど、マデリーンから父親まで取り上げる必要はなかったと思うわ。まぁ、それも今更ね。
あなたの思惑とは少し違ったけれど、マデリーンはランクス伯爵家から出て結婚したわ。
あなたの娘が跡継ぎになれるの。それなのに、いつまでマデリーンを貶めるつもり?
お嬢さんが社交界に出てきた時に、マデリーンの妹であることをよく思われなくてもいいのかしら?」
「……そんな、つもりは……」
「あなたにとってマデリーンは他人でもお嬢さんとは血が繋がっているわ。
お嬢さんのためにも、もうマデリーンを悪く言わないでほしいの。私はマデリーンが素敵な女性だと思っているわ。息子も離婚する気なんてない。だからランクス伯爵家に戻ることはないの。
別に親戚付き合いしましょうって言うわけじゃないわ。ただ、こうした夜会で挨拶を交わしたり、たまには伯爵とマデリーンの父娘の会話くらい許してあげてほしいの。どうかしら?」
「ええ。……そうですね。キイナのためにも。」
アークライトは母がランクス伯爵夫人を言い包めたことに尊敬の念を抱いた。
母の方がランクス伯爵夫人よりも10歳ほど年上ということもあり、周りがよく見えていることもある。
同じように前妻の子を冷遇して離婚された例もあるのだろう。
離婚の可能性があるということと、マデリーンを悪く言うと娘にも影響が出るということ。
他人では指摘し難いことを母が言ったことで、ランクス伯爵夫人は自分の置かれている立場を改めて理解することになっただろう。
もう、マデリーンの悪口を広めることはないはずだ。
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