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しおりを挟むマデリーンの淑女教育は順調で、飲み込みが早いことで礼儀作法や一般知識はほぼ問題がないという。
心配だったのは言葉遣いだが、8歳まで貴族令嬢として教育を受けていたことがよかったのだろう、平民の言葉に染まっていないようだった。訛りもなかった。
会話術などは実践を積んでいくしかない。ダンスも、まだまだだ。
近いうちに、母の友人を集めて嫁として紹介するつもりだと言っていた。
中には気難しいことを言う人もいるだろうが、それも社交の練習。
徐々に慣れていけばいい。
夜会に連れていくのはその後がいいだろう。……まだダンスも不安なことだし。
だが思ったよりも早く、マデリーンを連れて歩くことができそうだった。
ただ、社交界に出るにはマデリーン本人のことだけでなく、他にも懸念事項はある。
まず、エレンが帰国している。再婚をしたと断りはしたが、公爵家を袖にした感はある。
エレンにいい相手が見つかっていない場合、再婚相手のマデリーンが敵視される可能性はある。
そして、エレンだけではない。マデリーンと結婚する少し前まで届いていた縁談は、まだ再婚の意思はないと断っていたのにいきなり結婚したのだ。婚約ではなく。
どういうことだ?と問い詰めてくる貴族がいてもおかしくはない。
調べれば簡単にわかるだろう。マデリーンと知り合う機会などなかったことを。
最後に、ランクス伯爵夫人。マデリーンの義母だ。
彼女はマデリーンがアークライトと結婚したことをどう思っているだろうか。
マデリーンが領地を出てからは、領地の屋敷の使用人に問題があったことで伯爵に問い詰められることはあっただろう。知らぬ存ぜぬで通しただろうがマデリーンの行方を伯爵から聞き出すにも時間がかかったはずだ。
義母にしてみれば、20歳が近づいた令嬢なのに次期伯爵であるアークライトに嫁いだことは悔しくて仕方がないに違いない。行き遅れとして老人に嫁がせるつもりだったのだから。
アークライトからすれば、普通の令嬢であれば子供を産みたいだろうからマデリーンには申し訳なく思うが、あの義母にとっては幸せな結婚に見えるだろう。アークライトがあと20歳年を取っていれば違っただろうが。
まぁ、義母のことは母がなんとかするだろう。
母が息子の嫁となったマデリーンを可愛がっている姿を見せれば、ランクス伯爵夫人は口出しできない。
口を出した途端、義理の娘を冷遇していたことを非難する目で見られるだろう。
20歳が近づいているというのに伯爵家の娘を一度も婚約させていなかったのだ。しかも、姿を見せてもいない。
マデリーンを悪者に仕立てようとしても、無理があるだろう。
前妻の子だからと冷遇していたことを知っている人は知っている。だが他家のことだから口出しはしない。でも、口出す機会を得られれば嬉々として貶めようとするのが社交界なのだから。
その社交界に出る前に、マデリーンとは心身ともに夫婦になっておいた方が付け込まれても守りやすい。
この2か月の間に、マデリーンとの仲は確実に良くなっている。
彼女は素直で明るく、可愛い。
思わずつられて、こちらも笑顔が増えるし、素直な言葉が出てくる。
そういうところを、両親も子供たちも好ましく思うからこそ、会話が多くなったように思う。
そして、明日はマデリーンの20歳の誕生日だ。夜は……初夜だ。
今までの僕たちは婚約期間と同じようなものだ。明日から、僕たちは夫婦になる。そう思っている。
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