後妻の条件を出したら……

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
3 / 24

3.

しおりを挟む
 
 
後日、フォレスターから届いた手紙には、ランクス伯爵が長女の後妻入りを希望していると書かれてあった。


「父上、ランクス伯爵が明日、長女と僕の縁組について話をしたいと訪問するようです。」

「ランクス伯爵の長女?……確か、伯爵の今の妻は後妻だったな。前妻の娘ということか。」

「離婚されているのですか?」

「いや、死別だ。長女はおそらく初婚だろう。後妻に気遣っていい縁組がなかったのかもしれない。」

「ああ、確かに伯爵令嬢で婚約者がいなかったのであればそうかもしれませんね。」 


この時点で、後妻と長女がうまくいっていなかったのだろうと想像できる。
我が子よりも前妻の子がいい嫁ぎ先に恵まれることが許せない後妻というのは意外といるものらしい。
だからこそ、アークライトも後妻に子供を産ませたくない理由の一つなのだから。 


「ランクス伯爵は少し気弱だが、領地経営も堅実で特に問題もない。縁組としては悪くないな。」

「そうですか。伯爵お一人で来られるようですので顔合わせの前に言いたいことでもありそうですね。」

「そうだな。ま、明日だな。」






翌日、約束の時間にランクス伯爵はやってきた。


「急な訪問をお願いして申し訳ありません。」

「いえ、かまいませんよ。アークライトの後妻にご令嬢が手を挙げたとか。」

「ええ。……いえ、私の独断です。あの子は、マデリーンはまだ知りません。」
 

纏まるかどうかわからないから、まだ話していないということか。


「実は、マデリーンは5歳から領地で暮らしています。」

「伯爵たちとは別で、ということでしょうか?」 

「はい。マデリーンが3歳の時に前の妻が亡くなり、4歳の時に今の妻と再婚しました。5歳の時にマデリーンに妹が産まれました。その直後から、妻がマデリーンを嫌い始めました。」


マデリーンが妹の頬に触れただけで抓ったと妻が大騒ぎしてマデリーンを叩き、妹の髪に触れただけで引っ張ったと大騒ぎしてマデリーンを叩いたのだという。
 
妹に会わないようにマデリーンに言い聞かせていたが、妻がマデリーンの姿を見ただけで妹をイジメにやってきたのだと折檻するようになったらしい。

頬を腫らし、手足にも傷を負ったマデリーンが可哀想で5歳で一人領地へと行くことになった。

伯爵は毎年、マデリーンに会いに行っているが、妻と下の娘キイナは一緒には行かない。
マデリーンも王都の屋敷に来ることがないまま19歳になった。


「妻が……あの子を後妻に、と。だが、自分の遠縁の年寄りばかり勧めるのです。しかも、3回死別したという男を勧めてくるのです。私の娘をそんな男に嫁がせるわけにはいかないと言っても、私がマデリーンを気に掛けることが気にくわないらしく。
このままでは無理やり結婚させられそうだと思っていたところ、フォレスター殿にアークライト殿の後妻の条件のことを聞き、手を挙げさせていただきました。」


ん?ということは、マデリーン本人はこちらの条件すらも知らない?


「ランクス伯爵、マデリーン嬢本人は私が出した条件を知らないのですよね?彼女が拒否することは?」

「大丈夫です。あの子は明るく優しい子で、いつも私を気遣って困らせるようなことはしません。
ですのでどうか、マデリーンを受け入れてくれないでしょうか。」


ランクス伯爵が恥も外聞も気にすることなく語ったことで、娘に対する愛情を感じた。

ここまで聞いてしまえば、アークライトが断った後のマデリーンが気になってしまう。

父も同じことを思ったようで、マデリーンと顔合わせをすることになった。

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

お父様、ざまあの時間です

佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。 父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。 ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない? 義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ! 私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ! ※無断転載・複写はお断りいたします。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

処理中です...