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しおりを挟むアークライト・クインは友人が屋敷に来るのを待っていた。
友人フォレスターとは同じ伯爵家の長男ということで学園時代からの友人である。
アークライトが元妻イヴの不貞を知ったのも、フォレスターからの情報だった。
彼は友人が多いのか、いろんな情報を耳にする機会があるようだ。
その情報に、アークライトはいろいろと助けられていた。
「アーク、急に悪いな。」
「いや、大丈夫だよ。何かあったのか?」
今日の約束は急だった。『今から行く』というのは珍しい。
「お前さ、あと数年で親から爵位を継ぐって言ってたよな?」
「ああ。28歳くらいにとは言われている。」
アークライトもフォレスターも今26歳だった。
「じゃあ、再婚相手の目途はついているのか?」
「いや、まだだ。まだ離婚して1年も経っていないし、来年にでも探そうかと思ってる。」
アークライトの元妻が不貞をして離婚することになったことは、それなりの者が知っていることだった。
離婚して割と早い頃から再婚話は持ち掛けられているが、今は断っていた。
「早く決めた方がいいぞ。」
「……理由は?」
「隣国の公爵家に嫁いだエレンが夫の浮気相手が妊娠したことに腹を立てて女にナイフを向けたらしい。
すぐに取り押さえられて未遂に終わったけどな。
またその浮気相手が夫の母親の侍女で可愛がられている。エレンを追い出して侍女が妻になるそうだ。
エレンは犯罪者としてではなく、子供が産めなかったとして離婚を選んで国に帰ったという筋書きになる。エレンはうちの国の公爵令嬢だから面倒事にならないように穏便な対応ということだ。」
「……まさか、そのエレンが僕の後妻になると言いたいのか?」
「エレンが帰国してほとぼりが冷めた頃に、公爵は誰かに嫁がせるだろう。そうなると後妻になる。お前の名前はリストの一番上辺りに来てもおかしくはない。」
「……僕には子供が2人いるからか。」
夫との間に子供ができなかったエレンを子供のいない爵位を継ぐ男に嫁がせるわけにはいかない。
それに、爵位を継がない男に嫁ぐこともさせないだろう。公爵家の娘としてのプライドか。
「そうだ。社交に連れ出す妻はお前も必要だし、向こうはエレンを押しつけることができる。」
エレンという公爵令嬢のことは、アークライトもフォレスターも知っている。同級生だったのだ。
公爵令嬢というのはこうも周りと違う生き物なのか、と思うほど全てにおいて眉を顰めたくなる令嬢だったことを覚えている。
アークライトのクイン伯爵家は、伯爵家の中でも中堅でしかない。
あんな金銭感覚のおかしいエレンを養い続けることなどできやしない。
いくら公爵家の援助があろうと、使用人の格も公爵家と伯爵家では大違いなのだからエレンが満足する世話などできるはずがないのだ。
格上の妻を気遣いながら暮らすなど、息が詰まる思いだ。
「エレン以外にも、お前は恰好の再婚相手だと思われているからな。エレンと同じように夫に浮気された女性の縁談話が何度も来ているだろう?」
確かに、どちらかと言えば初婚より再婚を望む女性からの話が多い。
「まずいな。公爵から言われてしまえば受けざるを得ない状況になってしまう。」
「だろう?だから、早く再婚した方がいいと言いに来たんだ。そこでお前が望む後妻の条件を聞きたい。」
「後妻の条件?」
「俺も何人か、仲介を頼まれているんだ。お前の条件を受け入れる令嬢がいれば話が早いと思って。」
後妻の条件、か。……意外とあるぞ?
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