終わっていた恋、始まっていた愛

しゃーりん

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ディオンが両陛下だけでなく二人の兄夫婦まで呼んでいたのは味方を増やしたかったからのようだ。

計画では、ソフィアナに子供がディオンの子であると認めさせた後にその場で求婚するはずだった。
ソフィアナは涙を流して喜び、『ずっと愛していたわ。嬉しい』と抱きついて来るはずだった。
両親や兄、兄嫁たちは愛し合う二人を見て感動するはずだった。

子供もいるのであれば尚更ソフィアナと再婚するべきだ、となってから実は王女と離婚したいのだが戻らなくて済むよい案はないかと相談するはずだった。
 
そう。『はずだった』だけで、子供はディオンの子ではなくソフィアナも幸せな結婚生活をしていた。

結局、恥をかいて怒られに帰ってきただけ。


ソフィアナはラーガ王国のことはほとんど知らなかったが、王族にはやはりそれなりの情報はあるのだろう。ディオン以外は。
だから兄王子が亡くなって王女が次期女王になることを知っていても、国からディオンを王配候補として打診することをしなかった。なのに、そのディオンが自ら勝手に動いてしまったのだ。

王女との結婚を喜んでいるディオンにはラーガ王国の少し特殊な事情は伝えていなかったことが良かったのか悪かったのか。

良かったからこそ、2年以上も王女を独占していられた。

良かったからこそ、継承者争いが済んだ後だと知らず結婚できた。

良かったからこそ、子供がいないことで子供が暗殺されるかもしれない恐怖を感じずに済んだ。


しかし、知ってしまった今はもう自分の他に夫は二人いるし、浮気すれば殺されなくても何が起こるかわからないという生活を送らなければならないのだ。

フロレンティア王女はディオンの顔を気に入っている。

つまり、それだけが彼の価値なのかもしれない。

それを損なうようなことがあれば………王女の気分次第だろう。

ソフィアナは一応、ディオンが平穏無事で暮らせるようにと心の中で祈っておいた。

王女の人形のように過ごせば、それなりの生活はできるはずだから。




数日後、ソフィアナは妊娠していることがわかった。

両親はまた記憶がおかしくならないかとソフィアナを観察するように見ていたが、今度はちゃんとルキウスの子供だとわかっている。
 
それから徐々に膨らんでくるお腹にルキウスとライリーが毎日のように話しかけるのが日課になった。



ふとソフィアナは思い出したことをルキウスに聞いた。


「ルキウス様は一体いつ私のことを好きになってくれたのですか?ルキウス様がうちに来た頃の私は12歳の子供でしたよね?」


6歳年上のルキウスは18歳だった。
父は自分に何かあっても跡継ぎの私が困ることのないように、少し歳の離れたルキウスを婚約者にして侯爵家のことを学んでもらうつもりでいたようだ。
少しでも多くの自由を私に与えるために。

父の従兄弟の子供で、成績の優秀さと温和な性格を父が気に入ったらしい。

だけど、その直後に王家からディオンの婿入りの話が来たのでルキウスとの婚約の話はなかったことになった。

その後もルキウスは父について仕事を覚えていたが、ソフィアナとの接点はそう多くはなかった。
一度ルキウスに婚約を打診した手前、あまり二人が親しくなりすぎないようにと父は考えたのだろう。


「ソフィとの婚約を打診された時は、二人の気が合えばといった感じだった。義父上も6歳差は大きいから無理しなくていいと言ってくれていたしね。僕も最初はどうやって仲良くなろうかと悩んでたんだ。だけど、すぐに婚約の話はなかったことになった。

僕は結婚はしたいと思える人が見つかれば、と思っていたくらいで特に探したりはしていなかったんだ。夜会にも行っていなかったしね。

時々会うソフィの成長を見るのは楽しかった。どんどん綺麗になって大人になっていく。少し殿下が羨ましいと思ったこともあった。

だけど、明確にソフィが欲しいと思ったのは殿下との婚約解消後、義父上に結婚を打診された時かな。
僕にくれるのなら喜んでもらう。そう思った。形だけの夫と言われた時は落ち込んだけど、側にいればソフィはいつかこっちを見てくれると思って待っていた。そうして待っていたらだんだんと目が合いだしたんだ。」

 
意思を持った目に変わってきたという。それまでは目が合っていても虚ろに感じた、と。


「僕はね、見守る愛もあると思っている。その人が幸せならね。幸せそうじゃないからって、無理やり奪うように振り向かせるのは、僕はしたくない。だから時間はかかっても心に入り込んで記憶に残っていきたい。」

「……気長な愛ね。優しくて泣きたくなるような。ありがとう。愛してるわ。」

 
ソフィアナはルキウスにもたれかかった。ルキウスが肩を抱いてくれる。
ルキウスの膝にはライリーが眠っている。お腹の子供も眠っているのか大人しい。

とても穏やかで幸せな時間をソフィアナは享受していた。



<終わり>
 


 
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