上 下
19 / 20

19.

しおりを挟む
 
 
ディオン以外のみんなは、呆れたようにため息をついた。

国王陛下がディオンに言い聞かせるように話した。


「ディオン、お前はラーガ王国の王女の夫だ。お前は浮気していい身分ではない。
侍女がいなくなったのはお前に誘惑されて相手になったことで解雇されただけだ。そしていろいろ重なった出来事は単なる偶然。あるいは浮気したお前へ侍女たちが嫌がらせをしただけだろう。
そして兄王子が亡くなったことは、継承者争いに負けただけのこと。本人と側近たちの油断と怠慢だ。王女の方が狡猾であっただけだろう。婚約者も何か仕出かしたのだろう。
いずれにせよ、証拠が何もなく、そして王女が次期女王だと認められているのだ。何も問題はない。
あの国ではたまにそういう争いがある。それだけのことだ。」

「で、でも浮気を知られているのなら殺されるんじゃ………」

「殺されるのであれば、無事にこの国まで辿り着けなかっただろう。
一時帰国を促す手紙を書いてほしいと連絡してくるから、独断では帰りにくいのだろうと書いてやったが。
それに、子供ができなくて追い出されそうだ。離縁することになると言うから、ラーガ王国が離縁の意向なのかと思えばお前が勝手に逃げ帰っただけではないか。この国に戻って再婚相手を探すどころではないわ。
とっととラーガ王国へと戻れ!お前から離縁を言い渡せる立場ではないのだ。」

「そ、そんな……私が殺されてもいいのですか?息子ではないですか!」

「ああ。だが、王女に求婚したのはお前だ。女王の夫であれば国を動かせると思ったか?他国の王族であるお前は常に見張られているだろう。信用できる男かどうか。王女の手足になれるかどうか。それにより与えられる仕事も変わるし待遇も変わるだろう。これ以上見限られないように気をつけろ。」
 

見限られれば離縁か死か。

ディオンはこのままラーガ王国へと帰国させられるらしい。部屋を退出させられていた。 


成り行きで聞かなくてもいい話を聞いてしまった気がする。私たちがいてよかったのだろうか。

 


「付き合わせてしまったな。まぁ、あれだ。ディオンは幼い頃から少々考えが浅くてな。いくら勉強ができても国の頂点に立つ素質はないと判断して帝王学も学ばせなかったし、この国の重要なことは何も教えていない。
王領を与えず侯爵家の婿にしようと思ったのも、独断であれこれ勝手にできないようにするためだった。

王女に離縁されて戻って来れたらいいが、無理だろうな。他国の王子と二大派閥から一人ずつの夫。ディオンがいなくなると、また新たな一人を誰にするかで国が荒れる。バランスを考えてディオンを第一王配に選んだはずだ。役に立たなくても王女には問題ないんだ。
ディオンには少し怖がらせるように言ったが、よほど愚かなことを仕出かさない限り殺されはしない。」


あぁ、なるほど。ディオンが形だけの夫に成り果てても王女は構わないのだ。
新たな王配候補のために既に結ばれている婚約が解消されることになると、派閥内でも不満がおきて荒れるかもしれないから。


ディオンとの間に子供ができなかったことは故意か偶々か。 

浮気は侍女の独断か指令によるものか。

兄と婚約者殺しは事実かからかわれただけか。


……ディオンはフロレンティア王女の掌で転がされて遊ばれているのかもしれない。


どうでもいいけど。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】本当に私と結婚したいの?

横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。 王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。 困ったセシリアは王妃に相談することにした。

【完結】結婚しても私の居場所はありませんでした

横居花琉
恋愛
セリーナは両親から愛されておらず、資金援助と引き換えに望まない婚約を強要された。 婚約者のグスタフもセリーナを愛しておらず、金を稼ぐ能力が目当てでの婚約だった。 結婚してからも二人の関係は変わらなかった。 その関係もセリーナが開き直ることで終わりを迎える。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

処理中です...