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しおりを挟む公爵家のパーティーに参加した翌日、両親とソフィアナ、そしてルキウスの四人に王城まで来てほしいとディオンからの手紙が届いた。日付は明日になっていた。
彼は一体、何がしたいのだろうか。
手紙を前に考えていると、ルキウスが言った。
「ディオン殿下は、もしかしてフロレンティア王女と離縁してこの国に戻るつもりなのでは?」
両親もソフィアナも、その言葉に驚いた。
「でも、国交に有益だと結婚したのでしょう?戻ってきたら契約に影響を及ぼすものもあるはず。
だから簡単に離縁なんてできないでしょう?」
「だが、実際はどの程度の契約だったかは僕たちは知らない。殿下がフロレンティア王女を何度も訪問していたことは事実だったから、向こうの国からの打診ではなく殿下の求婚に王女が応えたという可能性もある。
そうなると政略結婚というよりも恋愛結婚のようなものだ。重要な事項は契約に織り込んでいないかもしれない。」
ディオンの嘘を確かめるために、殿下がラーガ王国を何度も訪れていたことというのは本当かを秘密裏に調べると事実だということが判明した。
二度だけでほとんど会話をしたことがないと言ったディオンの言葉は嘘だった。
「ソフィと婚約中でありながらも王女に求婚していたということを隠すために国交だの求婚を断り切れないだのと言って受けざるを得ないと我々を騙したのかもしれないな。王家は。」
父は王家が騙したと不信感を抱き始めた。確かにそうかもしれない。でも………
「お父様、私は私に対する王家の気遣いもあったのではないかと思います。
フロレンティア王女への求婚はディオン殿下の独断ではないかと。事後報告された王家は、私との婚約をどうするんだと言いますよね?三か月後に夫になるはずだった婚約者が別の女性、しかも王女に求婚していたのです。そんな不誠実なことを正直に伝えると私がショックを受ける。それよりかは、国同士の断れない結婚と思わせた方が私は裏切りに傷つかないし、殿下の体面も守れる。そんなところでは?」
王家、というよりも国としてディオンをラーガ王国に送ろうとしていたのであれば、どこからかマロン侯爵家の耳に入っていてもおかしくはないのだ。ソフィアナの婚約者であるにも関わらず、王女を口説きに通っているらしい、と。
それが聞こえてこなかったということは、国として動いていなかったということ。
王家が独断で王子を動かすといったことも不自然。
となれば、やはりディオンの独断ということになる。
「そうだな。そうかもしれない。だが父親の私には真相を話すべきことだ。まぁ、想像でしかないが。」
確かに私たちの想像でしかないことに腹を立てても仕方がない。話が逸れた。
「どうして殿下が離縁して戻るつもりだと思ったの?」
「殿下と王女の間に子供はまだいないと聞く。更に王女の夫は自国の男が二人増えた。
閨事の順番も決められているだろうし、二年以上も王女が妊娠しなかったことで殿下の順番は減るに違いない。その上、王女が妊娠すれば閨事にも制限がかかる。
子供もいない殿下があの国の重要な仕事を与えられているとは思えない。スパイかもしれないからね。
仕事もない。王女も取られた。思っていたのとは違う。そんな考えになったんじゃないかな。
自由に動けない立場を捨てて、国に帰る。帰った殿下に必要なのは?」
「……結婚相手。」
パーティーでのあの態度はそういうことか。腑に落ちた。
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