終わっていた恋、始まっていた愛

しゃーりん

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夫婦でありながらこの三年と少し、夜の夫婦生活を送ってこなかったので夜着にガウンを羽織った姿でルキウスと顔を合わせたことはない。

少し恥ずかしかったが、もう侍女も休ませる時間であるため部屋着を着るとは言えなかった。

ソフィアナよりも早く待っていたであろうルキウスを呼んでもらい、侍女にはもう休むように伝えた。



「ルキウス様、ごめんなさい。」


ソフィアナは思いっきり頭を下げて謝罪した。


「ソフィ、頭を上げて隣に座って。話ができない。……それで、何に対する謝罪かな?」


前ではなく隣に座ってと言われて、意味を考えることなく少し距離を開けてルキウスの隣に座った。


「あなたが私の夫になるしかなかったことに対する謝罪を。……思い出したわ。」

「……全部?」

「多分。巻き込んでしまってごめんなさい。」

「僕は自分の意思でわざと巻き込まれたんだ。経緯についてソフィは当然知らないから教えるよ。」


ルキウスはなぜ自分がソフィアナの夫になることになったか、順を追って説明してくれた。


国王陛下からディオンとの婚約解消を伝えられた両親が帰ってきてソフィアナを呼んだ。
侍女ピアが、ソフィアナはまだディオンと話をしていると言った。
侯爵夫妻は、ソフィアナとディオンの婚約が解消されたことをピアに告げ、ソフィアナが泣いているに違いないので自分たちが戻ったことを伝えればディオンは帰るだろうとピアを部屋に向かわせた。

やがてディオンが1階に下りてきて侯爵夫妻に謝罪して帰って行った。

ピアが、『ソフィアナお嬢様は泣き疲れて寝てしまわれた』と告げたので、侯爵夫妻はその日はそっとしておくことにした。


婚約解消の翌日、ソフィアナは思ったよりも落ち着いていたので侯爵夫妻は驚いたという。

しかし、何か言いたげなピアを呼び出して聞くと、ディオンの卑劣な行動を伝えられた。


侯爵夫妻はソフィアナの行動よりも、ディオンの行動を非難した。
ソフィアナは明らかにディオンに言い包められたのだとわかったからだ。

愛のある行動ではない。
単に、他の誰かにソフィアナの純潔を奪われることが惜しくなり欲情のままに抱いただけだ。

ピアを部屋に入れなかったのも、最初からそのつもりだった。 

二人きりだったのは半時間足らず。
その間に、婚約解消の話と自分の子供を産んで育ててくれと言い包めて手荒く抱いたのだ。

侯爵夫妻は怒りが込み上げてきたが、ディオンは既に出国している。

それに、ソフィアナは同意したのだ。たとえ、正常な判断ができない状況だったとしても。

ピアが言うには、周期的に妊娠する可能性はほとんどないとのことだ。
避妊薬をコッソリ飲ませることも考えたが、稀に不妊の後遺症があるため妊娠していない可能性にかけた。
しかし、万が一に備えて、侯爵は夫となってくれる者を検討した。

それがルキウスだった。

侯爵はルキウスに、ソフィアナの純潔がディオンによって穢されたことを話した。
どう言い包められたのか、妊娠してディオンの子供を育てていくことが幸せなのだとソフィアナは思っている。
妊娠の可能性は低いが、妊娠していれば父親がいないのは体面が悪い。
妊娠していなくても、純潔ではないことを次の結婚相手に告げることになる。

これを踏まえて、ルキウスにソフィアナの夫になってくれないか、と侯爵は告げた。

妊娠していなければ、跡継ぎのソフィアナはいずれ結婚する必要がある。
だが、ディオン以外の男を受け入れるかどうかはわからない。

ソフィアナが夫婦生活を拒否する場合は、一度結婚したという事実があればいいと侯爵は言った。
結婚した事実があれば、純潔ではないのは当然のことだから。
その場合、跡継ぎについてはまた考える、と。


ルキウスにとってソフィアナは雇い主の娘でずっと見守るつもりだった存在。

断る理由もなかったため、引き受けたのだと告げた。





 
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