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しおりを挟む男たちはまだディオンのことを話していた。ソフィアナは聞きたくないと思いながらも動けなかった。
「だけど、結婚して二年半ほどか?まだ子供はいないよな。」
「あのさぁ、事実かどうかは知らないけど、二人目の夫が王女の相手をしてるって。」
「マジで?あの国って対外的には最初の夫が表に出る夫になるけど、子供ができなかったり派閥争いとかで夫は実質三人まで許されているんだよな。二年過ぎたからディオン殿下の種がないと思われたのか?」
男の声は最後の方、すごく小さくなったがソフィアナには聞こえた。
「どうだろうなぁ。まだ子供は欲しくない、王女と二人でいたいと思っていたところに、自国の男も夫にするべきだって送り込まれたのかもしれないな。」
「そうなると、違う派閥の男も夫として送り込まれるぞ。一気に三人の夫か。誰の種を孕んだかわからなくなりそうだな。」
「そこは月替わりとかで管理されているんじゃないか?でも女一人に男三人ってすごいな。」
「普通は男一人に女三人だよな。誰が孕んでも種は同じ。男としては羨ましい。」
「羨ましいけど、単なる一貴族がそれをしたら修羅場だな。やっぱり孕ませるのは妻だけにしないと。
でも、王女がそれぞれの子供を孕んだらどうなるんだろうな。最初の子供が跡継ぎか?それとも最初の夫の子供が跡継ぎか?」
「決まりはあるんだろうけど、子供が成長したときの派閥の情勢も関係ありそうだな。」
「おい。なんでディオン殿下の子供はできない前提なんだよ。」
「いや、そんなつもりはなく一般論だよ。だけど、二年半も子供ができないのも作らないのもおかしいことだよな。跡継ぎを設けるのは王族の義務なんだから。」
「やっぱ種無しか?」
違う。子種がないならライリーは?
……ダメ。それは考えてはいけない。
どうして?
いつもと同じ。
深く考えてはいけないと思い、それを避けようとする。
そう思ったのは久しぶり。
だけど、もう逃げてはいけないと思う感情が上回った。
考えるんだ。
そう思っていた時、いつの間にかルキウスが後ろにいて囁いてきた。
「今日はもう帰ろう。」
「………ええ。」
男たちにはソフィアナが話を聞いていたと知られることなく、その場を離れることができた。
屋敷に戻る馬車の中で、ソフィアナは今まで考えることを避けていた事柄を一つひとつ思い出していた。
ライリーの誕生日。
ルキウスとの結婚記念日。
ルキウスに親しみを持った感情が結婚するときからあったこと。
ライリーがルキウスに似ていること。
ルキウスに触れられても嫌だと感じたことがないこと。
そしてディオンの子種のこと。
過去から先ほどの夜会までを思い返し、ソフィアナは忘れていたことを思い出した。
忘れていたというよりも、自分で自分の記憶を改ざんしたことを。
そして一番迷惑をかけたのが、ルキウスであったということを。
「ルキウス様。」
「ん?」
「後でお話が。」
「……うん。着替えて湯浴みを済ませたら部屋を訪ねるよ。」
そう言って、頭をポンポンとしてくれる仕草をいつもなら子供扱いしていると不満に感じるところだったが、今は無理を強いてきた優しさだったとわかった。
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