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しおりを挟むソフィアナが、息子であるライリーと同様のようで少し違うルキウスとの触れ合いに慣れ、それが習慣のようになるのは意外と早かった。
嫌じゃない、と思うソフィアナ。そして、嫌がっていない、と気づいているルキウス。
ライリーの髪を撫で、頬にキスをした後はソフィアナも同じことをされるのを待っている。
ライリーの左右の手をそれぞれが繋いで歩いていても、ルキウスがライリーを抱き上げた後はソフィアナとルキウスが手を繋いでいる。
そしてルキウスが教えたのだろうか。
ライリーがルキウスの頬にキスを返すようになり、ルキウスがソフィアナへのキスのお返しを待つようになった。
毎回、勇気を出してキスをした後、恥ずかしがるソフィアナの顔を隠すようにルキウスが抱きしめてくれるのだが、それが『よくできました』と子供扱いされているようで、それでも居心地がよくて、文句を言って抱きしめてくれなくなるのが嫌だから何も言わなかった。
そうして段々と距離が縮まっていく私たちを両親が温かい目で見ていたことには気づいていなかった。
ただただ幸せで、自分たちの世界が出来上がっているようだった。
だが、ライリーがディオンとの繋がりということを忘れ始めていたソフィアナへの罰なのだろうか。
ある夜会でディオンが一時帰国するらしいという言葉を耳にした。
冷水を浴びたように、頭の上から足先まで冷たくなった気がした。
ディオンではない夫と幸せを感じている自分が裏切り者のように感じた。
一時帰国?次期女王の王配が一人で?フロレンティア王女は一緒ではない?
ディオンがもしこの国に来る機会があるとすれば、何らかの国の行事、例えば建国周年行事や王族の慶弔行事になるだろうと思っていた。それであれば、まだ父がマロン侯爵であることからソフィアナが出席する行事でもないと会うことはないだろうと思っていた。
何のための一時帰国なのかはわからないが、この国の王子だ。帰国パーティーが開催されるかもしれない。
あるいは、あちこちの夜会に顔を出すかもしれない。
そうなれば、ルキウスにエスコートされているソフィアナを見られるかもしれない。
ソフィアナの頭の中は、罪悪感でいっぱいになっていた。
そんなソフィアナの耳には次々と驚きの言葉が入ってきた。
「ディオン殿下、なんだかんだと野心を捨てられなかったんだよな。」
「そうそう。よく言ってたよな。なんで自分の方が優秀なのに兄が王太子なんだって。」
「学生時代は生まれた順番が残念だったなって慰めてたけど、今思うとヤバい発言だよな。」
「ラーガ王国って兄王子が亡くなったことでフロレンティア王女が次期女王に決まっただろう?兄王子に続いて王配になるはずだった婚約者まで亡くなって、ディオン殿下は何度か王女を慰めにラーガ王国に行っていたじゃないか。自分を王配にって売り込んでいたようなものだよな。」
「この国では兄王子が二人いるから、自分が王にはなれないもんな。たとえ王配でもいずれ女王の隣に立つのが自分なら、国のほぼ頂点と言ってもいい。助言と言いながら国を思うように動かせると思ったんじゃないか?」
「まぁ、実際にはなかなか無理だろうけどな。」
ディオンに野心?自分を売り込んでいた?
ソフィアナの前では全くそんな素振りはなかった。
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